2008年9月3日水曜日

教師力08(1)無給で大学院 「実践」学び直す

(読売 8月26日)

休職し、自費で教職大学院に通う教師がいる。

「先生、ちゃんと勉強してる?」、
「私たちも頑張るから、先生も頑張ってね」
久しぶりに北海道に帰ってきた太田恵子教諭(45)に、
札幌市立米里小学校の児童が次々と抱きついた。

太田教諭は4月から上京、玉川大学教職大学院で学んでいる。
3月まで担任していた児童が、札幌市内で開かれる
YOSAKOIソーラン祭りに出演するため、練習会場の体育館に駆けつけた。

練習の途中、騒ぎ出した児童に、
太田教諭は「この緑の線の上に乗って」と体育館の床を指さした。
児童はさっと一列に並ぶ。
居合わせた保護者から、「さすが太田先生」。
太田教諭は、「子供の感覚と大人の感覚は全然違う。
子供に分かりやすく指示すれば、大声を出さなくても1回で済むんですよ」

太田教諭が、改めて大学院での「学び直し」を決意したのは、
特別支援教育についてじっくり勉強するため。
教師の指示にうまく反応できない児童や集中力がない児童に対し、
障害を疑わずにしかってばかりいたことが、心に引っかかっていた。

学習障害(LD)や注意欠陥・多動性障害(ADHD)などの
存在を知って合点がいった。
専門書を読み、毎月、精神科医との勉強会に参加、
臨床心理士らが集まる学会にも顔を出すようになった。

現職の再教育を大きな目的に掲げ、実習重視で実践的な内容を
幅広く学ぶ教職大学院ができることを知った。
最新の教育論や指導法が勉強できるだけでなく、
玉川大には、付属の脳科学研究所があり、障害に対する最新の
脳科学的な知見を交えて学べると思った。

大学院修学休業制度を利用することにした。
進学を希望する現職教員に、1~3年の休職を認める制度。
この制度が2001年に出来るまでは、都道府県教委からの
派遣命令がないと、現職のまま進学することはできなかった。
08年4月までに、1230人がこの制度を利用したが、休業期間中は無給。
教職大学院に進んだ現職教員の多くも、
有給で学べる派遣命令を得た人が多数派。

太田教諭も、在学中は給料がもらえない。
入学が決まると、大学院の近くに小さなワンルームマンションを借りた。
運良く日本学生支援機構から奨学金を受けられたが、
家賃、学費、年金や介護保険料など、かさむ出費をやりくりする。
後悔はないが、「これでは(大学院に)来たくても、
来られない先生が大勢いるのも、無理はない」

以前から、全国各地で開かれる学習会や研修会に参加してきた。
学校に保管されている研修申請簿には、太田教諭の名前が延々と続く。
ことわざや俳句の暗唱、辞書を使った授業など、
新しい指導法は手当たり次第に試した。
効果が高いと聞けば、電子黒板でもプロジェクターでも自費で購入。
「少しでも良い指導ができるのなら、お金も時間も惜しくない」

そんな努力家だけに、都内の小学校を視察したり、ほかの学生を相手に
模擬授業を行ったり、といった日常のほか、
空いた時間には教育学部の講義を聴講する。
「この1年は、高価な買い物だから、一瞬でも無駄にしたくない」と、
街を歩いている時は、東京の小学生の様子の観察。
「電車の中で本を読む子が多い。さすが東京。
札幌の子供たちと、こんなに違うとは思わなかった」

「教師が学び続けなければ、子供が伸びるはずがない」が持論。
自分に続く教師が、どんどん現れてほしいと願っている。

◆人材育成の動き広がる

意欲の高い教員に、大学院などで学ぶ機会を与え、
プロの教師を育てようとする動きが広がっている。
いじめや不登校問題、子供たちの学ぶ意欲の低下などで、
指導が複雑化する中、教員の大量退職時代が始まり、
指導的役割を担う次世代の人材育成が必要とされている。

大学院の修士課程まで学ぶ専修免許状は、1980年代に出来ている。
教員養成系大学には、それ以前から、研究中心の大学院はあったが、
今春には、教職大学院が全国に19大学(国立15、私立4)に開校、
364人の現職教員が入学。
教職大学院は、現職教員の「再教育」を大きな目的の一つに掲げている。
各地の教育委員会も、ここ数年、授業力向上を狙いとした
教師向けの塾を相次いで開設。

共通するのは実践重視。
教職大学院は、2年間で取得する単位のうち、10単位以上を実習に充て、
専任教員の4割以上を校長経験者などの実務家で占める。
教育委員会主催の塾も、ベテラン教員が指導者を務める例がほとんど。

http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20080826-OYT8T00195.htm

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