2008年9月3日水曜日

「博士が選ぶ有望技術」連動記事 高西淳夫氏インタビュー

(日経 8月24日)

高西淳夫・早稲田大学教授

―ロボット技術で今、何が起こっているか?

石油価格が上昇する弊害が、ロボット分野にも出ている。
約10社と共同研究しているが、中小企業では原材料価格の上昇が
経営を圧迫し、研究開発費を出す余力がなくなってきた。

韓国では、ロボット産業を育成する法律が9月に施行。
自国にないロボット技術を海外から買ってきなさいという戦略で、
韓国企業は技術を買い取るために、
日本のロボットメーカーを買収しようと動いている。
欧州でもロボット産業の育成に動き出した。
日本は、景気減速で経営環境が厳しくなっており、
経営者はいっそ海外に売ってしまえという心理に傾いている。
アカデミックな世界に国境はないが、海外の国家戦略として
日本の最高技術が流出するとなれば話は別。

―ロボット技術は日本をけん引できますか?

今後の日本の産業を支える要となる技術。
鉄腕アトムのような形態ばかりでなく、自動車の自動運転が実現すれば、
広い意味で自動車がロボット化した。
外科医に代わって、脳や心臓など微細な場所にメスを入れるロボットなど、
用途は数多い。

―ロボット普及のカギは?

トヨタ自動車がパートナーロボット市場に本格参入する方針を示し、心強い。
大企業が、息の長い開発をしていくことが普及のカギ。
ただ、1社ですべてやろうとすると、限界があるかもしれない。
パソコンやゲーム機は仕様を公開して、
応用ソフト部分は創造的な人たちの参加を促して普及した。
ロボットも、プラットフォームとなる基本部分の仕様を公開し、
ほかの人たちの参加を呼び込む方が広がるのではないか。
マイクロソフトは、ロボティクススタジオというロボットプラグラムの
開発環境を整え、布石を打っている。

―日本のロボット技術の強みは何か?

軍事用に技術開発が進む米国と異なり、民生用技術が主導。
被災者救助ロボットは典型。
格安な通信費用で、携帯電話を使ってロボットを遠隔操作する技術も実現。
画面を見ながら、地球の裏側のロボットを操作することも実現しつつある。

―課題は?

国は、ロボット産業の支援に加え、ロボット普及の妨げとなる
法制面への目配りが必要。
例えば医療。
難しい部分だけをロボットで手術したとすると、混合診療となり、
医療費がすべて自己負担になってしまう。
被災者救助ロボットを無線操作で動かそうとしても、
総務省の無線許可が必要。
技術がある日本が、「制度の壁」でロボット普及に手間取っている間に、
海外勢に市場を奪われかねない。

<高西淳夫氏 略歴>
1956年生まれ。早稲田大学理工学術院創造理工学部総合機械工学科・
ヒューマノイド研究所教授。2足歩行ロボットのほか、
顎関節症の人の口の開閉訓練用のロボットなども開発。
東京女子医科大学と共同で、ロボットの医療福祉分野への応用研究も進める。

http://veritas.nikkei.co.jp/features/12.aspx?id=MMVEw2001022082008

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