2008年9月4日木曜日

「博士が選ぶ有望技術」連動記事 黒田玲子氏インタビュー

(日経 8月24日)

黒田玲子・東京大学教授

―将来、どんな技術が有望か?

幹細胞技術や遺伝子技術のさらなる発展が挙げられる。
肝臓などの臓器や、これまで不可能と思われていた
神経や歯などの再生につながり、病気の克服に役立つ。
発生がある程度進んだ段階の胚では、アクチビンといった
化学物質の濃度を調節することで、皮膚になったり、肺になったり、
心筋のように拍動する細胞に分化することが動物細胞で明らかに。

臓器のそのものの再生は難しいとしても、発生生物学、分子生物学、
細胞生物学などの融合分野で、臓器の役割をする様々な細胞群が出てきて
治療に使われることはそんなに遠い将来ではない。
医学と工学の融合領域でも、特に脳の働きに関しては目覚しい進展が予想。

―米国女性が韓国企業に依頼し、愛犬の体細胞クローンを作ったことが話題に。

体細胞クローニング技術は、一般市民に対するビジネスになりつつある。
体細胞クローニングの技術は、生命に対する考え方を大きく変えてしまった。
大切なのは、負の面への配慮。
科学の進歩は、必ずプラス面とマイナス面があり、
進歩するほどグレーゾーンが広がる。
生命科学は、ITや物作りとは異なり、内なる自分を研究する。
怖さを認識して、社会に応用していくことが大切。

生命の世界は、DNA(デオキシリボ核酸)やたんぱく質など
右型と左型のどちらか一方の分子でできており、
私の研究では分子や分子の集合体の右と左を測ることができる
分光装置を作ってきた。
普通の分光器は溶液でしか測れないが、固体でも測れたり、
時間変化を追えるようにしたりするなど、世界で唯一の機能を持っている。
科学技術のフロンティアとなる研究は、装置や新型万能細胞(iPS細胞)
作製技術などの“ツール”作りから始める必要。
誰かが作ったツールで研究していては、2番せんじになる場合が多い。

―科学技術研究の課題は?

フロンティアを開拓するには、時間も必要。
最近は、3年や5年で成果がでる研究を求められるようになっているが、
それでは先端の科学技術が生まれにくい。
国や企業も一歩引いて、世界の研究がどうなっていくのか、
見つめ直す時期にきているのではないか。

<黒田玲子氏 略歴>
1970年お茶の水女子大卒、英ロンドン大助教授などを経て、
東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻生命環境科学系教授。
専門は、分子の世界の右と左の研究。
国の科学政策の方向性を議論する総合科学技術会議議員を務めた。

http://veritas.nikkei.co.jp/features/12.aspx?id=MMVEw2002022082008

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