2010年1月11日月曜日

働く喜びに出会う職場

(日経 2010年1月1日)

企業が成長し続けるには、「企業は人なり」という原点に
立ち返ることが欠かせない。
従業員が、やりがいや達成感を持ちながら働ける環境は
どうすればつくれるか?
「創造」、「貢献」、「連帯」、「成長」の喜びを
生み出す職場を探った。

◆「創造」王将フードサービス

2010年3月期まで、4期連続で純利益が過去最高を更新する
見通しの王将フードサービス。
鈴木和久専務は、同社躍進の理由について、
「本部は何もしてない。従業員の自発的努力に依存」

同社では、ギョーザなど基本メニューを除き、
各店舗がどんな料理をいくらで売っても自由。
本部は、各店のバックアップに特化。
仕入れから企画、販促に至るまで現場に任せている。

大盛りメニューを格安で提供したり、住宅街で子ども向けメニューを
100円にし、家族客を呼び込んだりするといった取り組みは、
すべて現場の判断。
利益が出ていれば、本部は口を出さない。

現場で働く人に、考える喜びを与える仕組みが生まれた
きっかけは、創業当初のあるできごと。
約40年前、売り上げが伸び悩んだ時期。
創業者は、テコ入れのため、従業員に細かく指示したが、
料理人などが反発、業績は下降の一途をたどった。

創業者は、半年悩んだ末、「家賃だけ(こちらに)くれれば、
店はみんなに任せる。もうけは山分けすればいい」と宣言。
これで、店長らの目の色が変わり、3カ月後には売り上げが倍。
これが、現在の報奨金制度の原型。

チェーン店では、マニュアルを徹底するのが普通だが、
従業員の創意工夫は封じられ、店の付加価値が
マニュアルに制限される」(鈴木専務)。
王将では、現場が自ら考えることに喜びを見いだし、
次々と新たなアイデアを実現。
常に変化し続けることが、競争力の源泉に。

◆ 「貢献」シンフォニア

屋根や柱が壊れたらすぐに駆けつけ、手際よく直す。
工場に舞い込んだハトがふんの被害を起こせば、捕獲する——。
シンフォニアテクノロジーの伊勢製作所の工機保全部は、
工場で起きるあらゆるトラブルに対応する「何でも屋」。

同部の設立は2002年。
余剰になったり、生産ラインになじめなかったりした社員でも
活躍できる場をつくれないかと、当時社長の佐伯弘文相談役が発足。
佐伯氏は、神戸製鋼所専務からシンフォニアテクノロジーの社長に
転じ、生産改革を断行して赤字体質を改善した立役者。
修理や電力管理、設備保全など外注していた業務を取り込めば、
コスト削減と余剰人員活用の一挙両得に。

草むしりや塗装など、工場美化から始まった。
「草刈りまでして、会社にしがみついてるのか」と、
心ない言葉を投げかけられた社員も。

台車・治具・生産装置の製作や、プレス機の法定点検などの
補佐作業や雑務に対応していくうちに、仕事の幅が広がった。
今では、「何かあったら工機保全に」が合言葉として定着。
各部門から、生産改善の相談にも応じている。

工機保全部を現場でまとめる辻田和敏職長は、
「依頼主に『ありがとう』と言われることが、やりがいに」
貢献しているという喜びが、働きがいとなり、
頼られる存在に彼らを変えたのだ。

底流にあるのは、一部の優秀な社員が活躍して
会社を引っ張ればいい、という考え方の否定。
それぞれが持つ能力を生かして役割を果たす
「全員野球型」の経営を志向。
同部には09年5月、新入社員2人が初めて配属。
川村洋文工機保全部長は、「あらゆる生産分野に対応できる
人材を育成する段階まで来た」と意気込む。

◆ 「連帯」サイボウズ

「君の日報を読みました。一言アドバイスさせてください」。
グループウエアソフトを販売するサイボウズに、
新卒で2009年4月に入社した森信一郎さんのパソコンには、
ほぼ毎朝、社内の誰かから助言や励ましのメールが届く。

同社では、約30人の新入社員が業務の成果や悩み、
疑問を記入する日報を、社内ネットで公開。
新入社員への助言の内容までわかる。
「ある先輩の助言を読んだ別の先輩が補足してくれることもある」
同社が重視している「社員の連帯」を示す場面。

「(販売実績など)数字だけで社員を評価することはもうしない」。
青野慶久社長には苦い記憶。

株式上場から6年目の06年1月期、過去最高益を更新したが、
当時の人事考課は、実績を最も重視する内容。
営業担当の社員を、販売実績をもとに1位から最下位まで
順位付けし、昇給に差を付けた。

社員を奮起させる効果があった一方、社員同士が
手助けしないことが起こり始めた。
青野社長は、「手伝うと、相対的に自分の評価が下がる恐れがあると
社員に思わせる仕組みになってしまっていた」と振り返る。

現在は、社員が掲げた目標の達成度を評価の尺度に。
過去の反省に立ち、販売額など数値目標の申告は求めない。
社員は、緊急時の代役引き受けや新人育成など、
自分にできる仲間への貢献を目標にできる。

◆「成長」太陽パーツ

ビジネスに失敗はつきもの。
業務で失敗をした従業員をしかるのではなく、
表彰している企業がある。
表彰された従業員は、失敗から学んだ教訓を次に生かし、
成長の喜びを感じている。

金属部品加工を手掛ける太陽パーツには、仕事で大失敗した
社員を、「大失敗賞」として表彰する制度。
導入の契機は、1993年に新事業部立ち上げで5千万円もの
損失を出したこと。
それ以来、ビジネス上の困難に前向きに挑戦する
企業風土を醸成しようとしている。

2009年も、表彰された大失敗が。
ある金属素材に難易度の高い加工を施そうと
果敢に取り組んだものの、素材に関する知識などが不足、
多大な損失を出した従業員がいた。
この社員は決してあきらめず、新たな加工技術の取得に挑戦。

数カ月後、この従業員が会得した新しい加工技術は、
中国・上海の関連会社での生産に生かされる。
大失敗をバネにして会社に貢献することで、
「この従業員は、成長した喜びを実感している」(太陽パーツ)。

◆仕事や職場への意識「能力発揮できる」6割

日本経済新聞社と日本能率協会、NTTレゾナントの
「gooリサーチ」は、ビジネスパーソンの
仕事や職場への意識を調べた。
「能力を発揮できる」、「仕事を通じて成長できる」は約6割。
「なりたいと思える人がいる」は3割に満たず、
「相談できる人がいる」も5割に届かなかった。

能率協会の杉本守孝・経営研究主幹は、
「多くのビジネスパーソンが、仕事で能力を発揮したり、
成長したりしている実感を持っている。
働く喜びを感じている人が、これだけいるのは心強い」

気掛かりは、目標となる人がいないという回答が多かった点。
相談できる人がいない人も多かった。
働く人が職場で孤立しているのは、経済環境の影響も。
賃金が増えにくくなると、誰かに厚めに配分すれば、
別の誰かが割を食う。
ゼロサムゲームが続くと、集団としての強みが失われかねない

経営者がやるべきなのは、皆を一つにする目的を掲げること。
自社のあるべき姿や、社会にどのように貢献して
利益を伸ばしていくのかを説く。
プラスサムへの道筋を示す

「管理職は、部下を長い目で見てほしい。
結果を出せない部下には、苦労を認めたうえで
どうすべきかを助言する。
この姿勢を貫けば、先輩が後輩の面倒を見る雰囲気が生まれる」

◆杉本守孝

81年早大大学院商学研究科博士前期課程修了。
83年日本能率協会に入職。
MI(マネジメント・インスティチュート)・人材育成事業本部長などを
経て、00年に理事に就任。09年から経営研究主幹。

▼調査の概要

民間企業に勤務している20歳以上の正社員(役員は除く)を対象、
2009年12月に実施。502人が回答。男性の比率は79.1%。

http://netplus.nikkei.co.jp/ssbiz/ssresearch/ssr091226_4.html

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