2010年3月31日水曜日

目黒の五百羅漢寺 個性豊かな等身大の仏像

(日経 2009-12-29)

「ゴーン……」。
やや高めの鐘の音が余韻を引くように、
冬の冷たい空気を震わせる。
東京・目黒にある五百羅漢寺でも、
心地よい除夜の鐘が響く時期が近づいてきた。

・五百羅漢寺の除夜の鐘をつく参加者は、200~300人。
・江戸時代の仏師、松雲が彫った羅漢像500あまりのうち、
寺に現存するのは約300体。
・ほぼ毎月各1回ずつ、写経会や詠歌の詠唱会、法話の会を開く。

「何十、何百という羅漢さんは、いろんな顔をしている。
にっこりしていたり、しかめ面や斜めに構えていたり。
いかにも人間らしい雰囲気がいいですよね」、
お参りにきたという目黒区内に住む男性。

五百羅漢寺に、何体もまつられている等身大の像は、
それぞれが個性的な姿。
「羅漢とは、シャカの教えをじかに聴いた仏弟子たちのこと」と
斎藤晃道住職。

江戸時代の仏師、松雲が彫り上げた500体以上の羅漢像を
納めた五百羅漢寺は、かつて本所にあり、
江戸の庶民らの絶大な人気を集めた。
「身近な人々をモデルに。
うちの父親に似ている羅漢さんがいる、などと評判を呼んだ」と住職。

両国を経て、明治時代に目黒に移った寺は、
一時荒れ放題だったが、今は地上3階建ての近代的な建物になり、
像もゆったりと眺められる。

個性的な像とともに、この寺の鐘の音は良い響きで知られる。
元禄年間につくられ1774年に改鋳、
1951年、日比谷公園で開いた戦死者の慰霊大会で突かれてから、
平和の鐘と呼ばれている。

寺の建物の屋上にある鐘の前に立って眺めると、形も興味深い。
通常の鐘は、上の部分に丸い「乳」という突起があるが、
この寺の鐘は、梵字が浮き出している。
縁の部分が波打っている。
「鐘の形が、音にも個性を与えるのかな」とつい想像。

大みそかになれば、一般客でも自ら突いて音を確かめられる。
午後11時ごろ、本堂の前で仏具や古くなった位牌などを燃やす
おたきあげが始まり、甘酒の振る舞いがある。
11時40分ごろ、寺の人たちに続き、参詣客が鐘を突ける。
鐘つき券は、年越しそば、お守り付きで1000円。

予約は当日でもいいが、「だいぶ申し込みも入っています」。
近くに目黒不動尊、目黒駅周辺には歩いて10分ほどの間隔で
山手七福神が点在。
初詣でや散策コースとして楽しめる。

◆取材を終えて

五百羅漢寺は、都会らしいビル仕立ての寺。
お堂に入ると、みけんにしわを寄せたほっそりとした顔、
穏やかなほほ笑み、あばらの浮き出た座り姿などの
羅漢さんが目に飛び込んでくる。

羅漢さんの像には、「善意は報酬を求めない 善意尊者」、
「すがすがしい声 水潮声尊者」とか、説明付きの名が記されている。
親しみ深い姿とともに、このキャッチフレーズのような
各人の特徴がほほ笑ましい。

本所にあった五百羅漢寺は、羅漢像の見せ方でも大いに工夫。
当時の状況を描いた図絵を見ると、草履を脱ぐか脱がないかで、
急いでいる旅行客と、ゆったり参詣する客とを分け、
常に一方向へ進みながら五百羅漢を眺められるよう、
立体交差する通路を作っている。

「今の美術館の観覧の方式を、すでに実行していた」
斎藤晃道住職の言葉に、当時の寺を見てみたいと思った。

http://netplus.nikkei.co.jp/nikkei/news/expedition/expedition/exp091229.html

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