2010年4月3日土曜日

挑戦のとき/25止 小早川令子さん・高さん

(毎日 3月23日)

ネコを怖がらずに、寄り添うネズミ。
07年、英科学誌ネイチャー(電子版)に発表した写真は、
「まるでアニメ『トムとジェリー』のようだ」と、
世界的な反響を呼んだ・小早川夫妻提供。
ネズミは、小早川夫妻らが誕生させた遺伝子改変マウス。

腐ったにおいを嫌ったり、花や食べ物の香りにひきつけられたり。
ヒトを含め、生物の行動とにおいは密接に関連。
こうした行動は、哺乳類の場合、後天的というのが通説。

小早川夫妻らは、鼻の奥にあるにおいを感じる
嗅細胞の一部が欠けると、においは感じても、
においから受ける情動が生まれなくなることを明らかに。
ネコに寄り添うマウスは、天敵のにおいを感じても、
恐怖は感じなくなっていた。

研究のスタートは95年。
00年ごろ、嗅細胞で発現する遺伝子のうち、
別の部分で発現する二つの遺伝子を見つけた。
働きの違いを調べようと、嗅細胞の片側が欠けた
マウスをつくった。
これによる違いは数年間、確認できなかった。

普通のマウスが、においを嫌って近づかない強い酸のにおいを
かがせる実験をしようとしたところ、
改変マウスは酸の液体に突っ込んで死んでしまった。
「どうして死んでしまうほどの危険が分からないのか、と考え、
『この液体は危険』という意味が分からなくなっているんだ」、
令子さんは振り返る。

令子さんは、「哺乳類を扱った研究をしたい」と、大学院に進んだ。
ここで嗅覚を研究していたのが、学部学生だった高さん。
公私ともにパートナーとなり、嗅覚を通じた脳機能の研究を進めてきた。

高さんは、「脳の中枢では、情報が統合されてしまうので、
はっきりとした定義が難しいが、末梢は機能を明確に定義できる」。
令子さんも、「記憶はコンピューターでもできるけど、
好きや嫌いという情動はコンピューターは感じない。
生物らしさは情動が担っている

令子さんは、大阪バイオサイエンス研究所の研究者公募に応じ、
神経機能学部門室長に就いた。
夫婦で研究パートナーを組むことに否定的な意見もあるが、
「不足を補いあえるし、思いついた時に議論できるのも都合がいい」

嗅覚系の遺伝子改変マウスは、今では数十種類にまで増えた。
「どの部分がどの情動に対応しているのか。
その全体像を明らかにしたい」と声をそろえる。
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◇こばやかわ・れいこ

東京都生まれ。東京大工学部化学生命工学科卒。
09年、大阪バイオサイエンス研究所神経機能学部門室長。
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◇こばやかわ・こう

愛知県生まれ。東京大理学部生物化学科卒。
09年、同研究所研究員。

http://mainichi.jp/select/science/rikei/news/20100323ddm016040133000c.html

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