2009年1月13日火曜日

環境の旗手たち:/4 東レ・峯岸進一さん

(毎日 1月8日)

◇耐用年数2倍の浄水膜を開発、峯岸進一さん(40)

<中東やアフリカ、中国など世界では6人に1人が、
安全な水を飲めないでいる。
ストロー状の浄水用ろ過膜「中空糸膜」の新製品「トレフィル」が、
従来の製品より耐久性や汚れに強い点が評価され、
07年度の化学工学会技術賞を受賞。
峯岸進一さんが中核となって開発し、02年に実用化>

トレフィルは、全体に0・05マイクロメートルの無数の穴が開き、
汚れや微生物を除去して水をきれいに。
これを束ねた円柱形の部材を長さ約2メートル、直径約20センチと
世界最大にし、耐用年数を従来品の2倍以上の7年に延ばした。
汚れによる機能低下が小さくなり、処理能力が高まった。
東京都世田谷区の国内最大の膜ろ過浄水施設やインドネシアで使われ、
今年は韓国で採用。世界の多くの人に使ってもらえてうれしい。

<02年4月、大津市の研究所。実験室では生産に成功したのに、
愛媛工場ではうまくいかない。国内向けの1号機の納期が8月に迫っていた>

工場に2カ月間泊まり込み、考え続けた。
できないとは言いたくなかった。
温度や湿度など細かな生産条件を一つ一つクリアし、
最後のひとつになったのは6月。
実験室と異なる大型設備では、条件が異なることを知った。
実用化は大変だと実感。

<研究者が開発から製品化までかかわれる機会は少なく、
「幸せ者」と上司は言う>

子供のころの夢は、ロボットを作ること。
世の中の人が欲しいと思うものを作りたかった。
人に役立つ膜への思いは強くなり、ライフワークに。

<大津市内で、妻と子ども4人の6人暮らし。
子どもたちは「パパの仕事は水をきれいにすること」と言ってくれる>

入社当時は、水処理膜を知っている人はほとんどいない。
蛇口をひねれば、水が出る日本では難しいかもしれないが、
排水の再利用など水源の多様化が進み、それに対応した膜が必要。
研究に終わりはない。
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◇水処理膜

溶かしたプラスチック化合物でできており、大腸菌など除去物質によって
穴の大きさが異なる複数の膜がある。
淡水化に用いる膜の穴は、0・001マイクロメートル。
東レは日東電工、東洋紡、米ダウと並ぶ水処理膜の世界メーカーで、
市場規模は推定約1000億円弱(07年)。
水不足の深刻化による海水淡水化や浄水需要の増加で、
25年には7倍になるとの予想。
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◇みねぎし・しんいち

東工大大学院修士課程修了。93年、東レ入社、一貫して膜研究に従事。
浄水処理で北大との共同研究にも携わり、北大大学院博士後期課程修了(工学)。
05年4月から地球環境研究所主任研究員。埼玉県出身。

http://mainichi.jp/select/science/archive/news/2009/01/08/20090108ddm008020042000c.html

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