2010年12月22日水曜日

日本のスポーツ政策を考える

(sfen)

◆日本のスポーツ基本法の「現状・今後」について

佐野:中国・広州ではアジア競技大会が開かれている。
日本の総メダル獲得数は、中国に次いで第2位。
金メダルは、韓国に遠く及ばない。
アジアナンバー1のスポーツ大国といわれた日本が、
年月を追うごとに、その面影を失っていくのではないか。

トップアスリートの国際競争力を高めていかなければならない、
一方、真っすぐに走れない子どもがいたり、
でんぐり返しができない子どもがいたりなど、運動能力の欠如も問題。

わが国では、野球やサッカーといった競技スポーツが非常に盛ん。
テレビの視聴率は別にしても、“観るスポーツ”はとても盛んに。
皇居周辺のランナーなど、“するスポーツ”も活発。
一方で、スポーツをするための施設は充分なのか、
きちんと指導する人たちが充分いるのか。
そうした問題も内在している。

12月、FIFAワールドカップの2018年と2022年の開催国が決定。
日本が2022年の開催国に立候補していることを、
日本国民のどれだけの人が認識しているのか?
昨年、2016年夏季オリンピックの開催地として、
東京が立候補していたときと同じような状態になっているのでは。
そういった危惧もある。

今、日本のスポーツ界の現状を挙げたが、若干支離滅裂のような感じ。
この支離滅裂感が、これまでスポーツ政策について、
きちっと対応してこなかったことの証なのではないか。

鍵となるのが、基本法。
基本法というのは、国のスポーツ規定の大本。
基本法を基準にしなければならない。
今日は、スポーツ基本法について先生方にお話を伺いたい。
まずは、諸外国のスポーツ基本法に詳しい筑波大学の齋藤先生に、
専門のフランスを中心に解説していただく。

齋藤 : 私は、フランスのスポーツ法と政策を専門、
諸外国のスポーツ法と政策全体を比較した中で、
何がポイントなのかを解説したい。

一つ目は、『スポーツの理念及びスポーツにおける規範価値に基づく、
スポーツ基本法の制定とスポーツ政策を実施すべき』という点。
このような理念及び規範的価値には、まずスポーツをする、
スポーツに参加する、アクセスする機会を保障すること。
スポーツの自由、スポーツにおける無差別平等、公正、安全、保護
といった観点を中核に、スポーツ基本法の内容を理念に基づいて、
もう一度スポーツ基本法というものを作っていくべき。

2つ目は、『スポーツの定義とスポーツ法及び政策の射程範囲』について。
諸外国と比べ、スポーツの定義や内容は各国で非常に異なるが、
基本的には運動競技だけでなく、身体活動も含めた余暇や
レクリエーションまで、スポーツの定義に含んでいる。
諸外国では、スポーツ基本法及びスポーツ法は、
アメリカのように競技者を中心としたスポーツ法、
フランスのようにスポーツと身体活動を含めてスポーツと定義している
スポーツ基本法、
カナダのように身体活動とスポーツのそれぞれを分けたスポーツ基本法、
という3つの形態に分類。

現代的な傾向として、スポーツの定義が拡大しているので、
身体活動とスポーツの両者をどのように規定し、
いかに政策の対象を組み合わせて両立させることが出来るか、
というのが今後のスポーツ基本法の立法の重要な課題。
わが国のスポーツ政策は、競技スポーツを重点に置いているが、
未組織あるいはレクリエーショナルな身体活動についてまで、
いかにスポーツ基本法の射程範囲を広げて立法できるか、
ということも重要。

3つ目は、『スポーツ基本法の立法論の3類型』。
立法論には、施策型つまり国が定めるトップダウン型の基本法と、
実践型つまり実践者の立場を規定してスポーツ基本法を作る
ボトムアップ型、その混合型も考えられる。

今の日本のスポーツ振興法は、どちらかというと施策型。
国が行うべき内容を規定し、スポーツをする人、支援する団体を
中心とするのであれば、実践型つまりボトムアップ型の
スポーツ基本法の構成を考えることが重要。
一つ目に挙げたスポーツ法の理念を重視した立案と関連する。

4つ目は、これまでスポーツ振興法、自民党スポーツ基本法案、
スポーツ立国戦略などであまり明確でない点、
同時に諸外国と大きく異なる点について説明。
スポーツに参加する人、団体、組織をどのように捉えるか、
いかに定義するかということ。

諸外国では、それらについて厳密に定めながら、
スポーツ政策やスポーツ立法というものを定めている。
National Governing Bodies、Federation、Association、Commission
などの専門用語が存在。
わが国でも、スポーツをする組織を明確に規定しながら、
スポーツ立法政策を進めるべき。
国、地方公共団体を含めたネットワークを、いかに形成していくか。
以上4点を、諸外国のスポーツ基本法の総括。

佐野 : 齋藤先生ありがとうございました。
私は、日本のスポーツ基本法は、立法論の3類型でいうところの
施策型になると思う。
昨年7月、自民党が単独で出したスポーツ基本法案が、
衆議院の解散で廃案、そのことがじっくり審議する機会を設けることに。
スポーツ基本法をあわてて作る必要はない。
日本のスポーツ界について、多様な立場の方たちに発言する、
いい機会になったのではないか。

今年、スポーツ立国戦略ができ、自民党公明党両党による
スポーツ基本法案が継続審議。
わが国のスポーツ基本法がどうなっていくのか、
遠藤さんと鈴木さんにお話を伺いたい。

遠藤 : 4年前、今の鈴木さんと同じポストである文部科学副大臣で、
スポーツ担当をしたが、トリノオリンピックが開催、日本は散々な結果に。
幸い、荒川静香さんが金メダルを獲ったが、
活躍を期待されたほとんどの種目で、思うような結果が残せない。
なぜこうなったのか?
文部科学省の中に、スポーツ振興に関する懇談会を設立、かなり議論をした。
わが国はなぜ、力が落ちたのだろうかと。

韓国や中国が、どんどん力を伸ばしていることがあるが、
日本ではまだ、スポーツは遊びの延長としか見られておらず、
国が責任を持って推し進める、という体制や認識が
定着していないという結論。

昭和36年に制定されたスポーツ振興法を見たが、
プロとアマのスポーツが整理されず、
障害者のスポーツや国際貢献についての記述もない。
スポーツ振興法を基本としながら、法を改正し、
時代に合った法案を作りたい。

スポーツ振興に関係する省庁は、文部科学省、厚生労働省、
経済産業省、国土交通省など、多岐に。
これらを一つにしたスポーツの中核組織を作れないかなどなど、
少なくとも10数回は議論を重ね、報告書をまとめた。
副大臣退任後、その具現化を目指し、さらに検討するため、
自民党内に全ての政党の中で初めてとなるスポーツ立国調査会を設立。

自民党だけでは成立しないし、スポーツは思想や信条を超えるので、
スポーツ振興法改正プロジェクトチームという組織を、
超党派のスポーツ議員連盟の中に設置。
鈴木さんにも入っていただき、1年にわたり議論。

アドバイザリー・ボードとして、体育や、選手の強化、ドーピングなど、
各分野の専門家20名の方々に参加。
自民党と公明党で、スポーツ基本法を取りまとめた。
残念ながら廃案になったが、あらためて修正を加え、
再度今年の6月にスポーツ基本法の法案として国会に提出。
来年、スポーツ振興法ができ、ちょうど50年目の節目の年、
1日でも早く成立させたい。

鈴木 : 遠藤さんとは、超党派のプロジェクトチーム時代から共に活動。
一番仲のいい超党派のメンバー。
民主党の主たる主張は、50年振りにスポーツに関する基本法を作る以上、
齋藤先生が理念を述べられたように、スポーツ権を盛り込むべき。

自民党はトップスポーツ、民主党は地域スポーツを重視していると

いわれるが、これは非常に不毛な議論。
トップを高めようとするなら、裾野を広げなければならない。
裾野を広げようとすれば、トップが活躍できなければならない。

私は15年前頃から、熟議の民主主義を研究のテーマに。
スポーツ政策こそ、国民の皆さんに熟議をしていただくのにふさわしい内容、
基本法ができるのが望ましいのでは。
私は、スポーツ立国戦略をまとめる中、大勢の皆さまと熟議をした。
今後さらにスポーツについての議論を、国民的に深めていただきたい。
文部科学省として、来年の通常国会でスポーツ基本法案を出せるよう、
しっかりと準備を進めている。

基本法ができるまでの過程も重要だが、できた後はもっと大切。
基本法に基づいて、基本計画を策定していくから。
基本計画において、地域に根差したスポーツ環境の拠点となる
総合型地域スポーツクラブを、全国300カ所くらい選定、
そこに引退後のトップアスリートに常駐し、
コーチング、クラブマネージメントをしていただきたいと考えている。
具体的な施策は、基本計画の中で一つひとつ位置付けながら実施。

縦横無尽の強化体制が、トップアスリートの強化に大事。
FIFAワールドカップ南アフリカ大会で、日本は大活躍し、第9位。
選手の心肺機能を高めるため、運動生理学の専門家が協力し、
標高差を乗り越えて十分戦えるようになったことが、要因の一つ。
専門や分野を越えた、縦、横、斜めの協力は、
基本計画においてはより具体的になっていく。

日本のスポーツ政策を、誰が担っていくのかをきちんと議論して
いかなければいけない。
中国や昔のソビエトのように、全部国が担うというのは、
日本ではなかなか難しい。
アメリカのように、民が全部担うパワーがあるかというと、それも難しい。

わが国では、企業が選手をサポートしている例も多いが、
経済状況の中、従来のようなサポートを継続していくのは難しい。
企業、政府、自治体、地域、学校の社会総ぐるみで
担っていく方向に進むべき。
ジュニアやユースといった層をどうするのか、
競技によって競技人口の比率が違うので、
それをどのようにしていくかという議論も深めていく必要。

http://www.ssf.or.jp/sfen/sports_policy/sports_policy1.html

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