(毎日 10月14日)
あたたかい日が続いているが、朝夕はめっきり冷え込んできた。
北のほうでは、もう冬を意識しているだろう。
こんな季節には、毛糸ものがだんだん気になってくるもの。
明治時代、イギリスの宣教師によって伝えられたホームスパンという
毛織産業がある。
羊の毛を染めて手でつむぎ、手で織るざっくりとした風合いの織物。
スコットランドやアイルランドなどの離島で継承。
明治時代に、スコットランドと気候が似ているということから、
政府によって北海道や岩手、長野県がその産業の候補地に選ばれ、
農家の副業として導入。
昭和50年代の最盛期には服地、ネクタイなど3万6千メートルもの生産量。
今では生産は落ち込み、岩手県の東和町と盛岡市内にいくつか工房があるだけ。
岩手県盛岡市にある「みちのくあかね会」(岩動麗代表)は、
ホームスパン工房として昭和37年、女性たちの手によって創立。
現代では、女性起業家も少なくないが、このころには相当珍しかった。
今でも、十数人の女性たちで運営や製作が行われている。
もともとは、太平洋戦争で夫を失った女性たちの働き場所を提供するための活動。
当時は、子供や家族がいて出来る仕事といえば内職くらい。
子供を抱えても働けるのでは、とホームスパンに女性たちが目を付けた。
出勤時間も、今で言うフレックス制にして働きやすい環境を作っていった。
このシステムは、今でも続いている。
ホームスパンでつくられる毛織物の工程は、とにかく手作業。
材料となる羊毛は、イギリスから輸入。
国産の羊毛だと、汚れやゴミが多く、服地にしたとき、こしが出にくい。
この原毛を広げて、ゴミをとりながら用途に応じて仕分けていく。
原毛を石けんでよく洗い、染色にかかる。
染めた毛を解いた毛の繊維を、カーディングという作業できれいに整える。
アンティークの足踏み式つむぎ機で調整しながら糸をつむぎ、
できた糸を織り機で織っていく。
機織りで実際に織るのは最終作業で、その前段階の羊毛から糸をつくるまでの
作業に、よりベテランの手と目と勘が要求される仕事。
みちのくあかね会の作品で、一番目を奪われたのは、その色。
鮮やかな青、シックな茶系、深みのあるグリーンなど、
昔から今に続くまで根強い人気があるのもうなずける。
鮮やかな色でも派手にならないのは、糸を染めるのではなく、
原毛の状態で染めたものをいくつか混ぜて1本の糸につむいでいるから。
こうした糸を使うことで、他ではあまり見る事のできない
上品な色合いに仕上がっている。
化学繊維では味わえないふんわりとしたやわらかさも、手作業ならではのもの。
織る人の個性が出るのも、手織りの魅力のひとつ。
大量生産では味わう事のできない風合いが実感できる。
本来は、寒い東北地方の人のためにと考えられたホームスパンだが、
首都圏の人たちからの支持が圧倒的。
たくさんの在庫があるわけではないので、注文してからつくられることも多い。
その貴重な作品を心待ちにする根強いファンに支えられている。
値段は、マフラーで1万6000円くらい。
この手間ひまを考えると、決して高くない。
とっておきの一品として、大切に使える品となるはず。
昔のようにたくさんの量をつくれるわけではないけれど、
岩手の手仕事として地道に残っているホームスパン。
働きたいという若い人からの希望も最近増えた。
欠員があれば入れるが、そんなにたくさんは受け入れることをしていない。
ほんとうにやりたい人が、こじんまりだけどよいものをつくり続けている。
かたかたと手動の機械が回る音を聞けば、気持ちが安らぐ。
遠くで雷がなった。わあっと工房にいるみんなで驚く。
そのあとみんなでくすくす笑った。こんなゆっくりした職場があってもいい。
みちのくあかね会 http://www.michinoku-akanekai.com/
http://mainichi.jp/life/ecology/mottshiritai/news/20081014org00m040015000c.html
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