2011年2月6日日曜日

特集ワイド:伝来100年 今も楽しいスキー場

(毎日 1月31日)

今年は、日本にスキーが伝えられて100年。

若者がゲレンデにあふれた90年前後のスキーブームは
遠い昔となり、近年のスキー場は寂しい風景も。
だが、復活の兆しも見えてきた。
最近のスキー場は、どう進化しているのか?

野沢温泉村の野沢温泉スキー場。
土曜日の午前10時、ゴンドラで着いた標高1400mの
上ノ平ゲレンデは、氷点下6度。

緩やかな斜面なので、スタートする顔ぶれはさまざま。
カラフルなウエアのスノーボードの若者たち、壮年のスキーヤーたち、
後ろ向きで滑りながら、わが子に手ほどきする父親。

東京都福生市の女性看護師(33)は、
「同世代の仲間は、もうスキー場に来なくなりました」

日影ゲレンデで、村に住む野明初子さん(74)と会った。
58年、61年と全日本スキー選手権アルペンで3冠に輝き、
62年、仏シャモニーでの世界選手権に女子で初めて出場。

「4歳くらいからスキーを履いた。
車もほとんど走らなかったから、家の前の道路でも滑っていた。
選手時代、同じ板を3シーズン使い、全種目に出た。
板が体の一部みたいになりましたね」

五輪選手14人を輩出した村には、日本のスキー史が脈打つ。

日本のスキーは、1911(明治44)年、
オーストリア・ハンガリー帝国(当時)の軍人、レルヒ少佐
新潟県上越市で日本人に教えたのが最初、
同村にスキーが伝わったのは、翌12(明治45)年。

大正時代にスキー場が開設、50年、木造のリフトが完成。
時代と共にリフト数は20を超え、若者でにぎわった。

91年度、利用者110万人に達した後は下り坂、
06年度、30万人にまで落ち込んだ。

全国の傾向も同様。
レジャー白書(日本生産性本部)によると、スキーの参加人口は、
93年の1860万人がピーク、07年、560万人にまで落ち込んだ。
背景に、不景気などを挙げる関係者は多いが、
新潟県観光振興課は、「金がかかるというイメージがある。
リフト代など、料金に見合うサービスを怠った部分もある」

スキー専門誌「ブルーガイドスキー」の阿部雅彦編集長は、
「まずいラーメンを出しても人が来て、てんぐになっていた時代も。
今は、どうしたらお客が来るか真剣に考え、進化したスキー場もある」
09年、スキー人口は720万人、回復基調に。

野沢温泉スキー場も、復活を模索。
05年、経営効率化のため、村営から民営に転換。
取り組みの一つが、家族向けのサービスで、雪遊びのできる
キッズパークやそりのコースを開設。
一昨季、託児所と離れたゲレンデの間の送迎サービスも始め、
今季、ブーツを脱いで休める親子専用の休憩所も設置。

「育った子供も、しっかりもてなしたい」(運営会社の河野博明社長)、
中学生のリフト代を子供料金に。

妻(29)と2歳の長男と来た男性(30)は、
「子育てなどがあったため、5年ぶりのスキー。
野沢はゲレンデがよく、キッズパークもあるため選んだ」

家族向けサービスに、力を入れる施設は多い。
若い頃、スキーを楽しんだ層に子連れで戻ってきてもらい、
子供にもスキー好きになってもらうため。

福島県磐梯町のアルツ磐梯は、会員になれば、
大人1人と小学生1人分の1日リフト券が5500円、
別々に買うより2900円得。
巨大遊園地(小学生以上有料)やスキーで巡るフィールドアスレチックを設け、
託児所、家族専用レストランなどを集中させた「ファミリーフロア」もある。

阿部編集長は、「道具も進化し、スキーは楽しくなっている」
十数年前に登場したのが、カービングスキーと呼ばれる
短くて、前後の幅が広い板。
初心者でも簡単に曲がれるのが特長。

格安ツアーも多く、関東から北海道のスキー場への2泊3日のツアーでは、
飛行機代、ホテル宿泊、リフト券込みで2万円台から販売。
信越方面への関東発日帰りバスツアーなら、
リフト券付きで数千円からある。

◇心も体も鍛えて--13回目を数える冠大会もある俳優・神田正輝さん

スキー場が快適になっても、滑りに胸が躍らなければ意味がない。
野沢温泉で会ったベテランスキーヤー(60)は、
スキー離れを、「寒くて風邪を引く。
家でゲームの方がいいということなのか」と嘆いた。
スキー上手で知られる俳優の神田正輝さん(60)に、魅力のありかを聞いた。

「決まったコースを滑れるわけでない。
風が吹き、雪も降っている。
スキーは、一秒たりとも同じ状況がない。
全身の神経を、敏感に使わないといけないところがいい

初めて滑ったのは、小学6年生。
中学生の頃、土曜の夜行列車でスキー場に通った。
大学ではスキー漬け。

米国メーカーの新製品を試すテスターの仕事もした。
卒業後、俳優になり、休みが取れずに中断した時期もあったが、
娘が幼い頃、せがまれてゲレンデに。
「ここ十数年は、ずっと続けている」

一番よく滑った志賀高原では、ホテルなどが実行委員会をつくり、
毎年「神田正輝カップ」と名付けたスキー大会を開き、今年で13回目。
「晴れた日の遠くの雪山を見るのが好き。
志賀高原なら、黒姫山が見えて絵のよう。
こんなに雪が降る国に住んでいるんだから、スキーで体も心も鍛えてほしい」

日本のスキー場の良さは、今や外国人が注目。
野沢温泉の外国人の宿泊客は、09年は約6500泊と、05年の4倍近く。
多くをオーストラリア人が占める。
地元は長野、新潟両県などでつくる誘致委員会に参加し、
豪州でのPR活動にも参加。

ゲレンデで、家族4人で休暇を楽しむダイモン・バードさん(43)は、
「とてもいい雪質だ」と満足そう。

午後のゲレンデ。
野明さんは、「けがをすると大変だから、今はなかなかできない。
天気が良ければ、滑りたいなと思う。
風を受けて、思う通りに滑るのは楽しい」

今シーズンの初滑りをせがむとカービングスキーで、
軽やかに下りてきて、「気持ちよかった」と笑った。

スキーはいいな。
板さえ履けば、風になれる。

http://mainichi.jp/enta/sports/general/general/archive/news/2011/01/31/20110131dde012040014000c.html

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