2011年2月7日月曜日

(岩手)【一人じゃながんすべ】上

(2011年1月28日 読売新聞)

「たぐきり」。
久慈地域で、「世間話」を意味する言葉。

県内で自殺率が高い同地域では、「たぐきり」に着目し、
自殺予防の取り組みを進める。

「夜中、どうしても足元が寒い」、
「足元だけ、横向きの毛布をかけてみたら。暖かさが違うよ」。
久慈市中心部の一角にある「サロン・たぐきり」では、
高齢者ら7人がソファでくつろぎ、窓からの陽光を浴びながら、
穏やかな「たぐきり」を続けていた。

サロンは5年前、保健師の関合征子さん(69)が中心となり、
「誰でも気軽に集まれる場所が必要だ」と開設。

月、木曜の週2回、年間に延べ約1500人が集まる。
かつての井戸端会議のような存在。
地域の人と人のつながりを再構築し、高齢者や悩みを抱える人が
孤立するのを防ごうという狙い。

市内で独り暮らしをする80歳代の女性は、
「ここで皆に元気をもらっているんだ」とほほ笑む。
7年ほど前に夫を亡くし、子どもは市外で暮らす。
話し相手はおらず、孤独な日が続いていた。

「当時は、不安なことばかり考えていた」と振り返る。
最近は、次のサロンが楽しみで、体の不調とも、
うまく付き合えるようになった。

運営には、精神科医も携わり、自分の思い出や気持ちを語り、
相手の話にも耳を傾けることで、自尊心を持てるように導くよう助言。
こうした活動は、自殺率が突出して高い地区で大きな成果を上げた。

久慈市、洋野町、野田村、普代村の4市町村が含まれる久慈地域は、
自殺率(人口10万人あたりの自殺者数)が、
10年以上前から毎年のように40を超え、
県平均を20ポイントほど上回る状況が続いていた。

特に地域内の一部地区では、2005年までの10年間の自殺率の
平均が300を超えた。
調査に対し、住民の半数に自殺した親族や知人がいると答えている。

岩手医大と県立久慈病院の医師や久慈市の保健師が、
05年からこの地区に密着。
月1回のペースで、住民同士の語らいの場を公民館などに設け、
住民に参加を呼びかけた。
自殺の主な原因となる「うつ」の講習会なども開いた。

活動に参加していた保健師は、
「自殺は仕方がないと話す人や、働けなくなった自分の存在を
否定するような人が少なくなかった」と、かつて地域を覆っていた
暗い雰囲気を思い出す。

それだけに、住民の変化は新鮮だった。
「うちの人、病院で見てもらうようになった」。
そんな一言にも、保健師は意識の変化を感じた。
取り組みが始まってから、この地区の自殺者は1人もいない。

地域の自殺予防に携わる岩手医大精神科の大塚耕太郎医師は、
「医療資源が限られている地域では、
住民同士での支え合いが自殺予防につながる」

大塚医師は、こんな警鐘も鳴らす。
「少子高齢化で、地域のつながりは弱まる。
自殺が多発する事態は、どこでも起こり得る」

◇4728人

この10年間の県内の自殺者数だ。
小さな自治体の人口に匹敵する人が、自ら命を絶っている。
県の自殺予防の中期計画が最終年度を迎え、
県は新たな計画を模索。

自殺予防の最前線に立つ人々は、
「一人じゃながんすべ(一人ではないよ)」という言葉を胸に、
医療や地域の現場で奔走している。

http://www.m3.com/news/GENERAL/2011/1/28/131713/

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