(毎日 2月23日)
CDやDVDなどでのデータ読み取り・書き込みや、
工業製品の溶接、医療機器まで、幅広く活用されているレーザー。
今年で、誕生50年を迎える。
応用範囲の広さから、「20世紀最大の発明」とも言われ、
新しい分野に用途は広がりつつある。
私たちの生活に欠かせない存在となったレーザーの仕組みや歴史、
最新の研究を紹介。
レーザーは1958年、米コロンビア大にいた
チャールズ・タウンズ氏が理論を発表。
60年、米国のセオドア・メイマン氏が、
ルビーを使ったレーザーを発明。
タウンズ氏は64年、ノーベル物理学賞を受賞。
◆従来と違う人工光
レーザーは、電球などの普通の光と大きく異なる性質を持つ。
普通の光は、さまざまな波長の光が混ざり合ってでき、
伝わる方向もばらばらで、四方八方へ広がっていく。
レーザーは、波長が一定で、波の山と谷がそろっているため、
一定方向へほぼまっすぐに伝わることが特徴。
タウンズ氏と共同研究をした経験のある
霜田光一・東京大名誉教授は、
「従来の光とは、まったく異なる光と言っていい」
なぜ、このような光が作れるのか?
レーザーが、アインシュタインの考え出した「誘導放出」という
原理に基づいた人工の光。
電気的に高エネルギー状態にされた原子は、
低エネルギー状態に戻る時、ある振動数の光の粒子を放出。
この粒子が、別の原子を刺激して同じ振動数の粒子を放出。
これを誘導放出。
この繰り返しによってできた多数の粒子からなる光は、
波長や伝わる方向がそろっている。
発明以来、誘導放出を起こす物質を変えることで、
強度や波長の異なるさまざまなレーザーが開発・実用化。
用途は、二つに分かれる。
一つは、レーザーをエネルギー密度の高い熱源として利用する使い方。
金属を、細かくきれいな断面で加工できる溶接機や、
医療用レーザーメスなどが該当。
もう一つは、まっすぐ遠くまで伝わる性質を生かした用途。
光ファイバーを使った光通信、スクリーン上の好きな場所を示せる
レーザーポインターなど。
◆X線の性質持たせる
まっすぐ伝わるレーザーの性質と、物の中をすり抜けて
内部まで届くX線の性質を持った「新しい光」の開発を、
理化学研究所が進めている。
兵庫県佐用町の大型放射光施設「スプリング8」の脇に
建設中の「X線自由電子レーザー」
X線レーザーは従来もあったが、波長の長いものしかなく、
小さな物質を見ることができなかった。
X線自由電子レーザーは、波長が0・1nm、
さまざまな物質の原子と原子の間の距離に近いため、
原子レベルで物を見ることができる。
電子の速度を自由に変えられるため、非常に短い時間しか
瞬かない光を作ることができるのが特徴。
これまでの手法で観察できなかった、瞬時に動く小さな物でも
見られるようになる。
新しい薬の開発につながる膜たんぱく質の1分子の動きの観察や、
化学反応を原子レベルで観察し、効率をより高める研究などに活用。
天文学や新素材開発などに役立つ可能性も。
施設は、円周が1・5キロのスプリング8ほどではないが、大がかり。
約400mの加速器に、電子を通してほぼ光速まで加速。
次に、強い磁力を与えてX線を放出。
施設は、全長700m。
X線と光速に近い電子の相互作用によって、
非常に波長の短いX線レーザーが生まれる。
今年秋には完成、来春までにはレーザーを稼働できる見通し。
理研放射光科学総合研究センターの石川哲也センター長は、
「さまざまな使い道があり、各分野で今までにない
サイエンスを切り開けるのではないか。
いろいろな分野の研究者に使ってもらいたい」
◆核融合で強力な熱源
強力な熱源として利用しようというのが、レーザー核融合。
大阪大レーザーエネルギー学研究センターでは、
10ペタ(1兆の1万倍)ワットという高強度レーザーを、
昨年3月に開発。
レーザーが当たる瞬間のエネルギーは、中国全土を照らす
太陽光を、畳半畳に集めた場合に相当するとてつもない強さ。
レーザーを、核融合原料の重水素と三重水素に照射。
核融合反応によって、ヘリウムと中性子が生成する5000万度の
高温を作り出す計画。
阪大では、5000万度を作り出す実験を今秋にも予定。
疇地宏センター長は、「レーザー核融合の研究は、
40年近い歴史があるが、ようやく初めて点火するところまで来た」
レーザー核融合を巡っては、米国のローレンス・リバモア研究所が
同時期に点火実験を計画、阪大では同研究所とも連携しながら
実用化を目指す。
http://mainichi.jp/select/science/archive/news/2010/02/23/20100223ddm016040110000c.html
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