2010年3月11日木曜日

親と向き合う(1)新人教師自殺 心のケアは…

(読売 2月18日)

なぜ、新人教師が希望を絶たなければいけなかったのか?

2006年5月27日、新宿区内の小学校の新任女性教諭が、
自宅で自殺を図った。
未遂に終わったが、声が出なくなり、うつろな目で
タオルを握りしめたまま涙を落とすばかりに。
31日、女性は再び死を選び、翌日に亡くなった。23歳。
教壇に立てたのは、わずか2か月。

その年の夏、娘のかばんを整理していた母親は、
中にあったノートをめくり、最後のページで手が止まった。
「無責任な私をお許し下さい。全て私の無能さが原因です。
家族のみんな ごめんなさい。」

女性教諭の初任校は、1学年にクラスが一つしかなかった。
新人ながら、小学2年の学級担任に就いた。
ベテランの教員が指導教諭に付いたが、この先生も
1年の学級を受け持ち、慌ただしかった。

不安もあったが、教師になれた喜びの方が勝り、
22人の教え子の名前を覚えようと、やる気に満ちていた。
一日は忙しかった。
授業に学級運営、遠足などの学校行事の準備。

初任者研修報告、公開授業指導案、年間授業計画作りなどの
仕事も山積。
朝6時半に家を出て、帰宅時も仕事を持ち帰る毎日。
ソファの上で迎える朝も少なくなかった。

「年頃なのに、出勤前に鏡を見なくなった」
4月下旬頃から、姉は妹の変化を感じていた。

学校が異変に気づくのは、5月22日。
研修で不在だった女性の連絡帳を、たまたま指導教諭が広げた。
4月のページから、ある親による苦情でいっぱい。

5月25日、保護者4人が校長室に駆け込む。
指導へのクレームだった。
親たちは教室に行き、授業をのぞいた。
亡くなる1週間前だった。

大学4年のとき、都内の小学校で、学習障害児に付き添う
ボランティアに励んだ。
芯が強くて明るく、人前で弱音を吐くような性格ではなかった。

亡くなる前、親たちが授業を見に来た後、
友人に「自分がふがいない」と打ち明けている。
「保護者対応が、気持ちの面で一番つらかったと思う」と、
当時の娘の心中を父親は推し量った。

個人情報保護を理由に、連絡帳は遺族に開示されていないが、
区教委が両親に口頭で内容を説明し、
「初任者である教諭が見たら、ショックを受けるだろう」。

「なんで子どもに漢字で名前を書かせないのか」、
「期待したような宿題が出ていない」など、
「結婚や子育てもしていないので、経験が乏しいのではないか」
といった教諭個人を中傷するような文言も。

女性教諭の死から4か月余りが過ぎた06年10月、
両親は公務災害を申請。
自殺直前、精神科医は「適応障害の疑い、抑うつ状態」と診断。

2年後、精神疾患との因果関係が認められないと、「公務外」と認定。
再審請求をしたが、結果は出ていない。

区教委は07年4月、再発防止策をまとめた。
「子どもへの指導や保護者への対応について、深い悩みに陥っていた」、
「状況の把握が結果として十分でなく」と結論づけ、
新規採用教員への心のケアや、全教員による保護者対応の
サポート体制が必要であるとした。

学校に理不尽な要求を繰り返す親、「モンスター・ペアレント」が
社会の関心を集め始めるさなかでの女性教諭の死は、
当時、保護者に問題があるとされた。

それから3年余り。
女性の両親は、原因は、むしろ学校のあり方にあると考えている。
両親は、女性教諭の同僚から聞いた話として、
かつて職員室にあったテーブルのことを話してくれた。
教員たちは、暇を見つけてはテーブルを囲み、悩みを語らっていた。
テーブルが撤去されたのをきっかけに、和やかな空気は薄れていった。

「保護者からのクレームだけで、人は死なない。
教師が支え合える仕組みがないと、子どもたちにとっても悲劇となる
父親の言葉は、対応に迷う現場への問いかけでも。

◆教職志望者「保護者との関係不安」

文部科学省が2006年度にまとめた調査によると、
「保護者や地域住民への対応が増えた」と感じている教師は、
小学校で74・9%、中学校で70・6%、高校で62・4%。
08年度、愛知教育大教職大学院などが教職志望の学生を対象に、
教師になる場合の不安について聞いたところ、
「非常に不安」、「不安」と答えた割合は、
「保護者との関係」が計70・3%で最も多かった。

いずれも背景には、「モンスター・ペアレント」の問題。
学校と保護者の関係づくりを研究する
小野田正利・大阪大教授(教育制度学)は、
「モンスター・ペアレントというレッテルを張って、人間性そのものを
否定すれば、要求の裏にある親の思いも抹殺してしまう」と警告。

保護者からの苦情が、学校問題を改善するきっかけになることも。
「向き合うべきか、距離を保つべきかを見定めるため、
まずは保護者の話に耳を傾け、怒りの根源を
学校全体で探る姿勢が必要だ」と小野田教授。

◆モンスター・ペアレント

米国の一部で、家庭内虐待を受ける子どもから見た
「怪物のような形相をした親」を指した単語。
日本で広まった言葉とは、意味が異なる。
米国では、特に大学生の我が子の生活に干渉する親を
「ヘリコプター・ペアレント」。
常に頭上を旋回し、何かあれば急降下して支援する様。

http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20100218-OYT8T00311.htm

0 件のコメント: