2007年12月2日日曜日

厄介者の巨大クラゲから、有用ネバネバ成分を抽出!

(NPG Nature Asia-Pacific)

理化学研究所中央研究所環境ソフトマテリアル研究ユニット 丑田公規ユニットリーダー(UL)

数年来、日本海で巨大クラゲが大量発生。
クラゲの傘の直径は1メートルにも達し、重さは100キロ以上。
暖流の対馬海流に乗って日本海を北上してくるが、
その際に、定置網や魚を傷つけ、漁業に深刻な影響を与えている。

ミズクラゲなどの小さなクラゲが大量発生すると、
海水を冷却水に用いている沿岸部の原子力発電所や火力発電所が
運転停止に追い込まれることも。

駆除や解体、廃棄もままならないなか、
クラゲの体から、医薬品や食品添加物として使えそうな
有用物質を抽出するのに成功。

丑田ULらが抽出したのは、糖タンパク質であるムチンの一種
ムチンは動物の粘液や、里芋、オクラに含まれるネバネバ成分の総称。
抗菌作用や保湿効果をもち、化粧品などに利用されているが、
構造が明らかでないものがほとんど。

丑田ULらが発見したのは、ヒト胃液などの主成分である「MUC5AC」。
古事記のなかに出てくる「久羅下」にちなみ、
「国を生む」という日本語をもじって「クニウムチン」と名付け。

10年前に、細胞の外側の骨格成分「ヒアルロン酸」の研究を始めた。
「ヒアルロン酸も糖鎖高分子の一種で、性質はよくわかってきていた。
2004年の夏頃、大量発生するクラゲの質感をみて、
大部分がヒアルロン酸のような糖鎖高分子ではないかと直感」。

ヒアルロン酸の抽出法をクラゲで試したところ、
大量のクニウムチンが出てきた。
クニウムチンは、8つのアミノ酸の繰り返し構造からなるペプチド鎖をもつ。
「クニウムチンは、アミノ酸配列も糖鎖の構造も、
きわめてシンプルかつ原始的な純度の高いムチン」。
現状では、クニウムチンのような単純なムチンでも人工合成は難しい。

丑田ULは、クニウムチンを原材料にして改変を施すことで、
免疫作用や粘膜の保護作用など、多彩な機能をもつムチンを作り出し、
抗菌剤、保湿剤、人工胃液、食品添加物などの用途に。
「クラゲは食用にもなり、クニウムチンを経口投与しても毒性はない。
きわめてシンプルな構造なので、生体に用いても免疫反応や
アレルギー反応をおこす可能性が非常に低い」。

クニウムチンは、エチゼンクラゲやミズクラゲなどの日本海側でみられる
クラゲに共通して大量に含まれ、クラゲ約1トンから300グラム程度抽出。
「日本で年間数十万トンは発生しているので、ほぼ無尽蔵に原料が存在。
クラゲがムチンをもっていたのは幸運だった」。

その幸運は、丑田ULが長年続けてきたヒアルロン酸の研究、
ムチンの有用性とマーケット拡大を見抜く先見の明がもたらした。
「回収作業で多少の収入が得られるようになれば、
漁業関係者の“ただ働き状態”を軽減することにも」。

今後は研究者や民間企業の手を借りることで、
できるかぎり多くの用途をみつけたい。

http://www.natureasia.com/japan/tokushu/detail.php?id=60

0 件のコメント: