2007年12月7日金曜日

万能細胞の安全性向上 がん遺伝子なしで成功

(共同通信社 2007年12月3日)

人の皮膚から、さまざまな細胞に成長できる万能性をもつ
「人工多能性幹細胞(iPS細胞)」を、世界で初めてつくった
京都大再生医科学研究所の山中伸弥教授らが、作製法を改良し、
より安全なiPS細胞を得ることに成功。

これまで、がん遺伝子を含む4つの遺伝子を皮膚細胞に組み込んでいたが、
がん遺伝子を除く3つの遺伝子でもできることを確認。

人体に有害な恐れがあるウイルスは依然として使っているが、
安全性をめぐる問題の1つが解決でき、
傷んだ組織を修復する再生医療の実用に向け前進。

山中教授は、「ゴールは先だが、一歩一歩着実に前進している」。
今後は、細胞作製の効率をいかに向上させるかが課題。

成人女性の顔から採った皮膚とマウスの皮膚で、それぞれiPS細胞をつくった。
マウス実験によると、3つの遺伝子を組み込む改良法では、
iPS細胞ができるまでの日数が2-3週間と、従来法の倍以上かかり、
細胞の量も大幅に少なかった。

がんの危険性を比較するため、従来法と改良法でつくったマウスのiPS細胞を、
それぞれ別の受精卵の中に入れ、赤ちゃんマウスを誕生。
がん遺伝子入り細胞を持つマウスは、37匹のうち6匹(16%)ががんになり、
生まれて100日以内に死んだが、がん遺伝子なしの26匹は、
同期間内に1匹も死なず、安全性がより高いことが確認。
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人工多能性幹細胞(iPS細胞)

既に役割が定まった体細胞に遺伝子操作を加えて、万能性がある
胚性幹細胞(ES細胞)のように多様な細胞に成長できる能力を持たせた細胞。
山中伸弥・京都大教授らが2006年、世界で初めてマウスの皮膚細胞から作製。
人の皮膚からの作製には、山中教授と米ウィスコンシン大チームが
07年11月、同時に成功。

ES細胞と違い、育てば赤ちゃんになる受精卵(胚)を材料にするという
倫理問題を回避できるのが最大の利点で、
再生医療研究を大きく加速する成果として注目。
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【解説】

人工多能性幹細胞(iPS細胞)は、治療に使うには安全面で2つの難題。
1つが、「がん遺伝子」を組み込んでいること。

今回の成功でこの点はひとまず解決したため、
再生医療の実用化に向け、大きく前進。
残る難題は、遺伝子の導入に「レトロウイルス」と呼ばれる、
発がんの危険が否定できないウイルスを使っていること。
ある専門家は「特定の遺伝子の除去よりこちらの方が難しい」。
解決にはかなりの時間がかかるとの見方も。

この研究は、iPS細胞づくりと並行して進められ、
初の作製成功の発表からわずか10日ほどでの成果。
研究競争の激しさを強く印象。
競争はさらに激化し、日本発の技術を適正に推進する方策が求められる。
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山中伸弥・京都大学教授

「20年近く研究をやってきて、初めて人の役に立つかもしれないと思えた。
ゴールはまだ遠いが、山頂は見えた」。

1987年、神戸大医学部を卒業。
研修医時代にリウマチの重症患者に触れたことなどから、基礎研究の世界に。
奈良先端科学技術大学院大で、受精卵を壊してつくる
胚性幹細胞(ES細胞)と異なる道を探り始めた。
きっかけの1つを、「約10年前に人の受精卵を顕微鏡で見た時。
受精卵は、子どもに育つ可能性がある。小さかった娘2人の姿と重なった。
ほかに道があるなら受精卵を使いたくないと思った」

マウスで成功して1年あまり。
試行錯誤して、人の万能細胞に必要な遺伝子を突き止めた。
「実験に取り組んだスタッフが頑張った。
成功した時に浮かんだのは、『すごいな、おまえら』の言葉」
と約20人の研究室スタッフをねぎらう。

世界的な競争が激化する研究分野。
複数の大学教授がチームで協力する欧米を「駅伝」、
個人技が主体の日本を「マラソン」に例える。
「臨床応用に向けて、日本も研究者同士の壁を取り除く必要がある」。

気晴らしは、大学周辺のジョギング。
「けがをしない保証があれば、学生時代のように柔道とラグビーをやりたい」
大阪府出身。45歳。

http://www.m3.com/news/news.jsp?sourceType=GENERAL&categoryId=&articleId=63297

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