2008年7月1日火曜日

日が昇るまで生きて 受話器握り、寄り添う 緊急連載企画「命つなぐために-自殺大国ニッポンのいま」5回続きの(2)

(共同通信社 2008年6月25日)

蛍光灯の白い光の下、着信の赤ランプが瞬き続ける。
夜の闇の向こうから、助けを求める声が押し寄せる。
「日が昇るまで生きて」。

相談者の苦しみを受け止めるのは、ボランティアの主婦や学生、会社員ら。
「眠らない電話」で、年間1万2000件超の相談を受ける民間団体、
東京自殺防止センター(新宿区)を訪ねた。

午後8時、繁華街から離れたマンション2階の事務所。
最初につながったうつ病の女性と話し始めて13分後、
相談員の主婦(64)が聞いた。
「死にたいと思うことはありますか」。

本当の気持ちを吐き出してもらうための「死の問い」は、
どの相談員も必ず口にする。女性の答えは、「消えてしまいたい」。
「泣きたい時は泣いていいんですよ」と寄り添う相談員。
40分ほど話して受話器を置くと、すぐ次の電話が入る。
「疲れた。いろいろあって...」。また女性。ぽつり、ぽつりと話す。
3人目は年配の男性。公園のベンチからだ。
「首つりを考えているが、周りに迷惑をかけたくない」

午前零時。公衆電話の男性は、経験5年の男性相談員(31)に告げた。
昼間も自殺しようとしたが、踏ん切りがつかなかった。
これからまたやるつもり。
相談員は「死んでほしくない」と伝えたが、通話度数がなくなり切れた。
「気掛かりです。またかけてきてほしい」

東京自殺防止センターは1998年発足。
日本の自殺者数が3万人を超えた年。
大阪で同様の取り組みをしていた西原由記子さん(75)が開いた。
所長の加藤勇三さん(70)は、「『生きたい』と『死にたい』の間で揺れる
人の力を信じ、歩き出すのを待つのが大事」。

相談員を目指して研修中の高城洋子さん(54)=仮名=は、
10年前に弟を自殺で亡くした。
死の数カ月前、東京から広島に帰省した際、本を読んでいた弟に
声を掛けたのが最後のやりとり。
「どう?」「ああ」。あの時、もっと話をしていたら?
弟にしてやれなかったことを、誰かのために。
10年間抱えてきた「宿題」。
死のふちに立つ人の心の声をとことん聞き、生きていてと伝えたい。

西原さんは、自殺者が後を絶たない現実に憤然とする。
センターが命綱になってきた自負はある。
だが、多くの人が希望を持てない社会。
「国は、もっと人々の『痛み』に目を向けてほしい」

午前6時。電話が鳴りやむころ、窓の外には青い空が広がっていた。
10時間で受けた相談は38件。つながらなかった電話もたくさんある。

※ 東京自殺防止センター 

相談は、毎日午後8時から翌午前6時まで、
電話03(5286)9090。
自殺しようとしている人の求めに応じ、スタッフが駆けつける「緊急訪問」や、
事務所での面接相談なども実施。

http://www.m3.com/news/news.jsp?sourceType=GENERAL&categoryId=&articleId=76281

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