2008年6月29日日曜日

“水没しつつある”ツバルの窮状

(サイエンスポータル 2008年6月20日)

今にも水没しそうな島国、ツバルに日本としてどのような支援ができるか?
「太平洋島嶼国の環境と支援を考える国際シンポジウム」が開かれた。
ツバルを代表して、マタイオ天然資源・環境省環境局長が、
「世界の中でも、特に気候変動の影響を受けやすい
脆弱なサンゴ環礁からなる島国」の窮状を訴えた。

ツバルの現状は、「高潮に対する最初の防御ラインであるサンゴ礁は、
熱ストレスに弱く、白化現象が毎年起こると予測」、
「サンゴの減少は、タンパク源である魚種の減少を招く」、
「温暖化による海水温の上昇により、カテゴリー4から5のサイクロトロンが
1975-89年に比べ、90-2004年には倍増」、
「今後30年のうちに、ツバルの一部地域に人は住めなくなる」、
「わずかな淡水層に海水が浸入することで、水不足に加え、
タロイモやココナツなどの生育が難しくなっている」。

マタイオ局長が、急を要する対策として挙げたのは、
沿岸域の防護、水管理、エネルギー確保で、
水管理には、地下の淡水層に海水を浸入させない防護策や
雨水の回収法の改善策、下水処理、家畜糞尿の処理など。

ツバルは毎年、2、3月が大潮の時季。
「日本を初め、各国からこの時季にジャーナリストが訪れ、
写真や映像を撮っていく」。
こうした報道で、水没の危機に瀕するツバル、というイメージを
刻みつけられた日本人も多いのでは。

地球温暖化による環境の激変は、遠い将来の話ではない。
その被害を最初に受けるのは、脆弱な地域、ということを実感させる
こうした報道が持つ意味は大きい。

シンポジウムの傍聴者は、海面上昇という外から見て分かりやすい
難題の背後に、ツバルがいろいろな社会・環境問題を抱えていることも理解。
報道では、なかなか伝わらないような。

茅根創・東京大学大学院教授によると、ツバルの一部地域の“冠水”は、
降ってわいたような出来事ではない。
ツバルは、サンゴ環礁でできた島の特徴として、外洋に面した沿岸部の
高い地形、ラグーン(環礁に囲まれた浅い環湖)に面した高い地形、
その間に広がる低地部から成る。
元をたどれば、サンゴや有孔虫の死がい。

三村信男・茨城大学教授が、20年以上前に現地調査したデータによると、
外洋側の高地の高さは海面から3-4メートル、ラグーン側高地は2メートル、
中央部の低地は1メートルないしそれ以下。

南太平洋応用地球科学委員会(SOPAC=ツバルを含む南太平洋島嶼国と
オーストラリア、ニュージーランドが加盟)の報告書によると、
ツバルの海水面は、高潮時に平均海水面から1.2メートル高くなる。
温暖化の影響と考えられる海水面の上昇は、この50年間で
10プラスマイナス5センチという報告。

つまり、50年間の海水面上昇を織り込んでも
「高潮時の水面上昇が、1.1メートルか、1.2メートルといった違い。
標高から見て、中央低地はもともと高潮時には冠水する区域」。

茅根教授によると、英王立協会の100年前の地質図によると、
当時、首都フナフティのある島はラグーン側高地に100人程度の集落があるだけ。
中央低地は沼地などからなり、海水がわきあがったという記載。

なぜ、最近になって海水の浸水が大きな問題になったか。
太平洋戦争時の1943年に建設された飛行場のために、
沼地だった場所が分からなくなってしまった。

さらに1980年代からの人口増で、100年前には100人程度しか
住んでいなかったフナフティの人口は、いまや4,000人。
かつて人が住んでいなかった湿地帯にも人が住み出し、浸水が問題に。

ツバルの歴史はともかく、茅根教授を含め講演者全員の考え方は一致。
とにかく対策は必要、ということ。
ツバルが直面する地球温暖化による海水面の上昇という
グローバルな課題への取り組みは、ツバルという地域の特殊性を
考慮したものにならざるを得ない、というのも講演者に共通する思い。

人口増により、増えた生活用水や豚の飼育に伴う汚水が垂れ流されている。
排水が海水の富栄養化をもたらし、サンゴや有孔虫の生育力を弱め、
海水面上昇の最初の“防護壁”になる環礁、砂浜の成長を阻害。
こうしたローカルな問題の解決も伴わないと、
ツバルを水没から防ぐ実のある対策にはなりえない。

http://scienceportal.jp/news/review/0806/0806201.html

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