2009年6月27日土曜日

米グーグルのホロウィッツ副社長「技術の世代交代進む」

(日経 6月13日)

米グーグルで、検索・広告・動画以外のサービスを統括する
ブラッドリー・ホロウィッツ副社長に、
クラウドコンピューティングの将来性などについて聞いた。

——グーグルのクラウド・サービスは、基幹業務系など
企業向けシステムを避けているのか?

「ワープロや表計算などから成る『グーグル・アップス』をみると、
パソコンソフトのクラウド化が中心にみえる。
ウェブメールの『Gメール』の企業版は、企業が自前サーバーで
運営してきたメールシステムを、クラウド上に完全に置き換えるもの」

「昨春から提供している『アップ・エンジン』は、クラウド上の
グーグル・サーバーに、誰でも自由にアプリケーション・ソフトを構築、
その機能・処理能力をネット経由で社員や消費者に提供できる。
企業の独自システムを構築するのに適している」

——アマゾン・ドットコムのように単純なストレージ分野には進出しないのか?

「アップ・エンジンは、グーグル・サーバーのCPU(中央演算処理装置)と
記憶容量を使えるので、ストレージサービスに似ている。
ファイアーウオールで守られた企業内システムのデータを暗号化して、
社外とやり取りできるようにするSDCというツールを、4月から提供。
企業向けの業務ソフトそのものの分野では、
セールスフォース・ドットコムなどの優れたSaaS企業があり、
グーグルは企業向けシステムの分野ではデータセンター機能や
ソフトの開発環境などインフラ部分を提供」

SaaS型の業務ソフト企業とは、グーグルのクラウドサービスと
うまく連携が取れるような環境を整えている。
セールスフォース・ドットコムとは、マッシュアップが可能な仕組みを用意。
SDCは、企業の社内データをセールスフォースのデータベースと
安全にやり取りするパイプとしても使える」

——最近、米マッキンゼーが大企業では自社データセンターより
クラウドの方がコスト高になると報告。

「特定の状況を設定した上で、既存の企業システムと比較して、
クラウドは危険だとか時期尚早だとかいう報告が出ている。
世界中で、クラウドへの移行がむしろ加速している事実について、
疑問を挟む余地はない。
私自身は、もはや未熟な時期は過ぎたと思っているが、
たとえまだ未熟だとしても、クラウドが主流になるのは時間の問題」

——今春、Gメールのサービスが何時間も止まる事故が相次ぎ、
クラウドの信頼性に不安が高まった。

「個別企業内のメールサーバーが止まっても、外からは分からず、
ニュースにはならない。
今この瞬間も、東京のどこかの会社でメールサーバーが止まっているはず。
それくらい個別企業のメールサーバーが落ちる頻度は高い。
Gメールは、比べものにならないくらい落ちる確率が小さい。
我々のシステムに何か問題が起きると、すぐに世の中に知られ、ニュースに。
透明性を高めることの宿命だ」

「Gメールでもグーグル・アップスでも、利用登録した瞬間に
世界で最も安定的で速いサーバーが使え、世界中のグーグル社員が
あなたのデータセンター管理者として最先端の技術で働いてくれる。
ウイルスや侵入などに対する安全の面でも、これほど心強い体制は、
個別企業のデータセンターでは実現できない」

——扱うデータ量が膨大になり、制御不能にならないのか?

「全く逆だ。
グーグルがデータを蓄積し処理している超並列サーバーの特徴は、
規模が大きくなるほど効率的になり、処理速度が高まり、
安定性が増す設計になっている」

——クラウド化の進展で基本ソフト(OS)など、
パソコンなど端末側のプラットフォームの自由度が高まっている。

「クラウド化の進展で、ソフトやデータを動かすプラットフォームは、
ブラウザーやウェブ上のSNSなど、OSより上のレイヤーに移りつつあり、
みんなが同じOSを使う必要性は薄れている。
インテルがOS供給元となるソフト会社を買収し、パームが新しくだした
携帯端末『Pre(プレ)』は、『webOS』というクラウド利用を前提にしたOSを
搭載した背景にはそんな潮流がある」

「もっと大きな流れとして、ICTの基本的な技術群が
世代交代の時期に入ったとみている。
『グーグル・マップ』やGメールも、1990年代に登場したJavaやXMLなどを
組みあわせた技術であるAjaxによって実現。
前世紀の技術で、ここまで高度なクラウドコンピューティングが
実現できたのは、ある意味奇跡。
これまでは何とか古い技術でやりくりできたが、そろそろ限界に」

「OSだけではなく、ネットワーク機器にしろ、通信インフラにしろ、
情報通信技術のあらゆる側面で、クラウドコンピューティングの普及を
前提にした、新たな土台作りが必要。
それぞれの業界のプレーヤーがそれに気付いており、
すでに動き始めているというのが今日の状況」

◆ブラッドリー・ホロウィッツ

米ミシガン大コンピューター・サイエンス学科卒、
米マサチューセッツ工科大(MIT)メディアラボで修士号。
博士課程在籍中の95年、シリコンバレーに移り住み、
動画ソフトベンチャーを共同創業。00年上場、03年売却。
04年、米ヤフーで先進技術開発部門長などを務め、
08年2月から現職。

http://netplus.nikkei.co.jp/ssbiz/interview/int090612.html

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