2008年1月20日日曜日

第2部・地球からの警告/3 危うし九州の稲作

(毎日 1月4日)

50年後の米どころは、北海道かもしれない。
温暖化が九州の稲作に打撃を与え、本州のコシヒカリ信仰が揺らいでいる。

九州産米の半分を占める「ヒノヒカリ」で、白く変色し粒も小さな米が増えた。
穂が実る時期の平均気温が27度を超えると、目立つ高温障害。
九州の07年産米のうち、大きな粒がそろった1等米の比率は32%。
全国平均の80%に遠い。
ヒノヒカリを4ヘクタール栽培する専業農家の収穫が、
すべて2等米なら、売価の5%の約20万円が吹き飛ぶ。

代わって作付けが広がったのが、新品種「にこまる」。
開発に携わった農業・食品産業技術総合研究機構の坂井真上席研究員は、
「開発着手時は、味や収量の改善が柱だったが、九州が暑くなり、
高温に強い品種しか残らなかった。九州の稲作が危うい」。

坂井さんは、筑後市の研究拠点で、温暖化に対応する新品種を開発中。
前原市で7・5ヘクタールを耕作する林一磨さん(48)は昨年、
1・4ヘクタールを「にこまる」に切り替え。
収穫した「にこまる」は、すべて1等米だが、ヒノヒカリはほとんど2等米。
「同じ条件で育てたのに、この差」

全国の作付面積トップのコシヒカリにも、温暖化が忍び寄る。
「この10年で味が落ちた」。
米穀販売大手「スズノブ」の西島豊造社長(45)は漏らす。
かわりに、北海道米が台頭中。

07年産米の1等米比率は、北海道92・0%に対し、新潟は79・6%。
05年から2年間で、新米の落札価格は北海道の「ほしのゆめ」が約8%上昇、
新潟産コシは約14%下落。
北海道産は、新潟産コシヒカリより3割ほど安いが、適度な粘り気が人気で
「コシから切り替える顧客が増えた」(西島社長)。

北海道産米人気は品種改良の効果が大きいが、温暖化はプラスに働く。
林陽生筑波大教授は、品種は現在のままだと仮定して、将来の収穫量を予測。
温暖化が進めば、60年代に北海道と東北の一部で2割近く収穫が増える。
他地域は収量が落ち、全国平均で1割減。

新潟県などは、田植え時期をずらして暑さを避ける対策を取ってきたが、
そろそろ限界。
同機構北陸研究センターの松村修上席研究員は、
「平均気温が1度以上高くなると、品種を切り替えるしかない」。

「今年の天候は?」。
山形俊男東京大教授に、豪州の農家から頻繁に問い合わせが。
教授は昨年、豪州が2年連続で大干ばつに襲われるとの予測を的中。
豪州の小麦収穫量は、平年の半分。
「インド洋西部で海水温が上昇し、大気循環が変わって雨が降らなくなった。
温暖化が影響している」

豪州の凶作などで国内の業務用小麦粉価格は昨年、24年ぶりに上がった。
うどんの本場香川県の讃岐うどん店の多くが、1~2割の値上げ。
讃岐うどん用小麦粉は、9割以上が豪州産。
大峯茂樹・さぬきうどん協同組合理事長は、
「約40年前、うどんに合う品種を現地の農家と共同開発。
豪州産の代替はあり得ない」。

日本の食料自給率は、4割。温暖化は、その食を一層危うくする。

http://mainichi.jp/life/ecology/select/news/20080104ddm002040021000c.html

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