2008年2月23日土曜日

予防できる?認知症:/上 住民主体の活動拡大 体操、食事など生活習慣改善

(毎日 2月20日)

認知症対策は介護費用を抑える上でも重要だが、主因の一つ、
アルツハイマー病の予防・治療法はまだ確立していない。
国は、10年計画で具体的な予防法の開発・普及を目指す。

脳の活性化になる、と人気の体操がある。
手の動きから「フリフリグッパー」と名付けられた。
茨城県利根町の保健センターを中心に、認知症予防策の一つとして始まった。

認知症と生活習慣には関係があるのか。
筑波大の朝田隆教授から01年、利根町に協力要請があった。
65歳以上を対象に、記憶力など認知機能のテストも実施。
約400人が、栄養、運動、睡眠のいずれかの実習に参加。

「フリフリグッパー」は、この運動実習で取り入れられた。
筑波大の征矢英昭准教授が、「血流改善が脳の働きを活性化する」と考案。
栄養実習では、動脈硬化を防ぐドコサヘキサエン酸(DHA)の摂取、
睡眠実習では30分程度の昼寝--などを実践。
3年後、参加者は再び認知機能のテストを受け、
朝田教授らが実習に参加しなかった住民と比較。

実習参加者では記憶力が改善した人が多く、
軽度認知障害(MCI)から認知症へ進む割合も低い。

町は、住民ボランティアの協力を得て運動集会を続けることに。
3カ所で月2回、50人程度がボール運動後、フリフリグッパーをする。
夫婦で参加する河野晴哉さん(78)は、
「体操をすると調子がいい。テストも張り合いになる」。
保健センターの村田啓子所長は、
「運動は一人では続けにくいので、住民が集まる場は貴重」。

練馬区は05年度から、住民ボランティアによる認知症予防推進員の育成
約300人が、ウオーキングなど自ら企画して活動。
推進員3年目の三ケ崎清政さん(65)は、義父母の入院を契機に応募。
老人クラブでフリフリグッパー体操を紹介したり、公園の調査など
「高齢者の居場所づくり」に取り組む。

認知症予防検討委員会が推計した10年後の認知症発症者数は、8800人。
紙崎修・区福祉部参事は、
「対応次第で減少可能。客観的データを知らせることが必要」と公表。
都老人総合研究所の「地域型認知症予防プログラム」を参考に、
三ケ崎さんのような住民主体の活動が始まった。
「これだけ人口が多いと、区が行うだけでは焼け石に水」。

都老研の本間昭参事研究員らが開発したプログラムは、
まだ認知症ではない高齢者を対象に、パソコンや旅行、料理などの活動。
認知症の前段階で低下が始まる「エピソード記憶(体験を思い出す能力)」、
「注意分割能力(二つ以上のことに注意を配りながら作業)」、
「計画力(段取りを考えて新しいことをする)」--などを鍛え、
最後は自分たちで運営し活動を続けること(自主化)を目指す。

宇良千秋研究員によると、アルツハイマー病の予防は運動や食事のほか、
知的活動、人との接触なども関連があり、
早い段階で脳の機能を鍛えれば発症を遅らせることができる。

愛知県豊橋市は、住民主導型のプログラムを取り入れている。
市介護保険課は、「(住民主導型プログラムは)参加者が認知症予防の目的を
意識しているので、『自力で続けよう』という意欲が強く、自主化しやすい。
発症者への理解も深まり、認知症対策に多くの住民を巻き込める」。
12グループ90人が参加、ほとんどが今も自主的に活動を続けている。

都老研のプログラムは、他府県も含め20以上の自治体が採用。
短期間で多くの住民に参加させたいという自治体の要望で、
当初4カ月16回だったプログラムを、5回でも自主化できるように改良中。
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◇Q&A
認知症はどういう病気なのか。
浴風会病院の須貝佑一精神科診療部長に聞いた。

Q 認知症は予防できる?
A 海外の疫学調査で、予防の可能性を示すデータが蓄積。
食事や運動、頭の使い方などが複雑に関係。

Q もの忘れは認知症の始まり?
A 年齢的なもの忘れは、記憶の回路が残っており後で思い出せるが、
認知症は記憶全体がすっぽり抜け落ち、ヒントを与えても思い出せない。
ただ、最初は家族も気付かないことが多い。

Q 軽度認知障害(MCI)とは?
A 通常の物忘れから認知症に移る期間のことで、
早く対策を打てば発症を遅らせられるのではと注目。
診断基準がなく、MCIの何割が約何年で認知症に移行するか見解が分かれる。
記憶力、注意力、計算力など障害にも複数のタイプがあり、異なる対応が必要。

Q 脳は鍛えるべきか?
A 「認知的予備力」といい、社会活動などで神経細胞ネットワークを
増やしておくと、病気になっても症状の出方が遅れる。
運動、食事、認知的予備力の3本柱のうち、運動と食事を基本に、
計算ドリルなどは楽しめる範囲で。
機能が衰えた人に無理強いはよくない。
自治体の予防事業も、検診に来なくなった人をどうすくい上げるかが課題。

http://mainichi.jp/select/science/archive/news/2008/02/20/20080220ddm013100141000c.html

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