2007年10月22日月曜日

卵子2つから作られた「二母性マウス」が誕生!

(nature Asia-Pacific 

東京農業大学応用生物科学部バイオサイエンス学科 河野友宏教授

ほ乳類には、雄と雌の2つの性がある。
生物学者は、その理由を
「多様な遺伝子の組み合わせをもつ方が生存に有利だから」、
「細菌やウイルスなどの有害遺伝子を排除するため」などと説明してきたが、
いずれも確証は得られていない。

河野教授は、有性生殖の進化やその制御メカニズムを解く鍵になると
思われる大きな成果をあげた。
精子を使わず、卵子2つから確実にマウスを誕生させることに成功。

ほ乳類では、雄の精子と雌の卵子が受精して、
両者のゲノムからなる2倍体の次世代が誕生する。
子はその遺伝子を、父親と母親から等しく半分ずつ譲り受ける。
ただし、その発生過程では、精子と卵子からの遺伝子が
同じようにはたらくわけではない。
使われない方の遺伝子は、「メチル基」が付加されることで
不活性化されている(メチル化)。
こうした遺伝子の発現調節は、「ゲノムインプリンティング」とよばれ、
発生学の重要な研究テーマに。

「精子と卵子のゲノムインプリンティングが、いつ、どのように成立し、
個体の発生にどう影響しているのかを検討したいと考えた」。
研究を進めるには、卵子の遺伝子だけから発生するマウス(二母性マウス)を
作ってみるのがよいと確信、
卵子(卵母細胞)と精子のゲノム中で、どのような遺伝子が
インプリンティングされているかを調べ、
卵子のパターンを「精子のパターン」に変換するシステムを開発。
「マウスの未成熟な卵母細胞のゲノムを精子のパターンに変換し、
それと成熟卵子の細胞を融合させて、13.5日まで胚発生させることに成功」。

精子のパターンに変換した未成熟卵母細胞のゲノム中で、
7番染色体のメチル化領域(父性メチル化インプリント領域)を欠損させると、
成熟卵子と細胞融合させた際の成長率が高まることを突き止め、
2004年に第1号の二母性マウスを誕生させることに成功。
「日本人なら誰でも知っている女性の名前で、
ロマンを感じさせるものをと考え、かぐや(KAGUYA)と名付けた」。

2007年には、7番染色体とともに12番染色体の父性メチル化インプリント領域を
欠損させると、ほぼ確実に個体にまで発生させることが可能に。
「生まれた二母性マウスはやや小ぶりだが、生体機能はまったく正常で、
通常の交配で子どもを産めることも確認」。
現在までに、27匹が誕生しているという。

インプリンティング遺伝子は200以上もあると考えられ、
精子側(精子アレル)と卵子側(卵子アレル)から発現する遺伝子が、
それぞれ約40ずつ明らかに。
「インプリンティングがなぜあるのかは不明だが、
単為発生を防ぐことで母体を保護している可能性などが考えられる」。

ヒトでは、インプリンティング遺伝子の異常による疾患が多く知られている。
今回の成果は、インプリンティングの制御機構の理解を促すだけでなく、
疾患の解明や治療法開発の糸口にもなりうる。
「ヒトに応用することは許されないし、技術的にも全く不可能」。
ただし、一連の研究が再生医療や不妊治療の基礎的な情報を提供しうる。
謎の尽きないテーマに、どこまで迫ることができるか?

http://www.natureasia.com/japan/tokushu/detail.php?id=53

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