2008年2月13日水曜日

新しい分光計測装置の開発で、ホタルの発光の効率を測定

(nature Asia-Pacific)

東京大学物性研究所先端分光研究部門
秋山英文准教授、安東頼子研究員

ホタルの発光は、発光物質ルシフェリンが酵素ルシフェラーゼやマグネシウム、
ATPなどの補因子の助けにより酸化され、反応エネルギーを光として放出。
定説となっているデータは、1959年にSeligerとMcElroyによって計測、
ホタルの発光の量子収率(量子効率)は88±25%。
これは、ルシフェリンの酸化反応が100回行われると88回光るというもので、
発光の世界では驚異的に高い。

この定説を追試したのは、東京大学物性研究所の秋山英文准教授ら。
生物、化学発光の絶対発光量を、定量的に計測できる分光計測装置を開発、
北米産ホタルの発光の量子収率は、41.0±7.4%と定説を覆す結果に

秋山准教授の専門は半導体で、ガリウム(Ga)と砒素(As)を材料とする、
断面寸法14 nm×6 nmの世界で最も細い量子細線半導体レーザーを開発。
量子細線は、電子を閉じ込めて移動方向を制限する量子井戸を重ねて
電子を2次元方向で閉じ込めた構造で、
半導体レーザーの発振性能を改善できると期待。

秋山准教授は、微小空間における微量の光に関し、発光の絶対量を計測する
技術を10年ほど前から研究。「光ファイバーのような導線がある光や
ビーム状に進むレーザーの定量計測はできるが、いろいろな方向に
放射散乱する微弱光の方向と強さを計測する方法がない」。

産業技術総合研究所の近江谷克裕博士(現・北海道大学医学研究科教授)から、
生物発光の分野でも弱い光の強さの基準がないことを知った。
安東頼子研究員が、近江谷教授やアトー株式会社とともに、
ホタルの光をひとつのターゲットとする分光計測装置の共同開発を始める。
ルシフェリンの2つの光学異性体D体とL体のうち、
ホタル生物発光に関与できるのはD体のみで、
ラセミ化(D体とL体が入れ替わり、等量化する現象)は勘案されず、
SeligerとMcElroyの88%という数値は訂正が必要。

2005年、新しい分光計測装置が完成。
発光物質を入れた溶液から、放射される光量を校正する方法を開発し、
分光した光の全量を発光光子数として絶対単位で評価し、量子収率を計算。
ルミノールを計測し、量子収率1.2%という定説と同じ数値を確認。
安定した数値を出すには条件を整え、何度も実験を繰り返した。
「溶液に泡があるとうまくいかないなど、測定してみてわかることが多い」。

ホタルの計測では、溶液のpHの違いによる発光の違いも。
ホタルの発光物質は、アルカリ性溶液中では緑色、
酸性溶液中では赤く光ることを、SeligerとMcElroyが報告、
これまでは緑と赤の発光が入れ替わると考えられてきた。
安東研究員らの研究から、赤の光はアルカリ性溶液中でも出ており、
溶液のpHによって変わるのは緑の光だけである可能性が高い。

同じホタルの仲間であるヒカリコメツキムシやテツゾウムシを調べる予定。
ヒカリコメツキムシは緑、テツゾウムシは赤の発光が強く、
反応酵素ルシフェラーゼに違いがある。

秋山准教授は、「絶対発光量の測定で、わからなかった事実が明らかになり、
共通の光の量の単位を用いて定量的に話せるベースにも。
分子イメージングの蛍光物質の明るさは、この製品は○フォトンというように、
技術的な基準にもなる。今後はこの装置を市販品として完成させると同時に、
どんな分野で使えるかという例を示していきたい。
世界のいろいろな分野で使い、改良して、分光計測のスタンダードにできれば」。

光は通信、記録、医療の診断などさまざまな分野で電気に替わって
使われるようになり、今後もその傾向は強まると予想。
光を測る新しい技術の今後に注目したい。

http://www.natureasia.com/japan/tokushu/detail.php?id=75

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