2008年2月28日木曜日

川崎病の関連遺伝子、世界ではじめて同定!

(nature Asia-Pacific)

理化学研究所 遺伝子多型研究センター:尾内 善広 上級研究員

1歳前後の子どもに多く発症し、心臓に後遺症を残すこともある川崎病。
約40年前に、川崎富作医師が発見したことからこの名がついた。
この10年は患者数が増え続け、平成17年と18年には2年連続で
患者数が1万人越。
「なんらかの病原体感染が引き金になって免疫系が暴走するのが原因」
との見方が主流だが、詳細は未解明。

理化学研究所の尾内善広上級研究員は、川崎病の発症とその重症化に
関連する遺伝子を世界ではじめて突き止めた。

川崎病はアジア諸国で多くみられ、日本人の罹患率はとくに高い。
年や地域によって発症数が大幅に増減することから、
なんらかの感染症が関与しているとされるが、詳細はわかっていない。
海外に移り住んだ日系人や兄弟どうし・親子どうしでの罹患が多く、
遺伝的要素も発症の引き金。

症状は、5日以上続く発熱、両眼の結膜の充血、四肢末端の発赤や腫脹、
皮膚の不定型発疹、唇や舌の腫れ、リンパ節の腫脹と多彩で、
5つを満たす場合に川崎病と診断。
ガンマグロブリンやアスピリンなどによる治療で治癒するケースが多いが、
あまり効かない重症例もあり、心臓の冠動脈に病変が生じて動脈瘤などの
深刻な合併症が生じることが多い。

尾内上級研究員は、研修時代に、兄妹で川崎病を発症した例を経験し、
紆余曲折を経て、川崎病の遺伝要因の解明に取り組みはじめた。
川崎病に関連した遺伝子(感受性遺伝子)が存在する染色体領域を
特定するため、兄弟どうしで罹患した患者の染色体の連鎖解析を行った。
「10か所の候補領域を見つけ、一塩基多型(SNP)と川崎病の罹患の有無
(罹患感受性)を調べ、19番染色体上に有意な相関を示すSNPを4つ発見」。

隣り合った異なる4つの遺伝子(NUMBL, ADCK4, ITPKC, FLJ41131)の
イントロン内に位置し、3つの要点を検討したところ、
川崎病感受性遺伝子がITPKC遺伝子であると結論。
ITPKCは、イノシトール3リン酸(IP3)をイノシトール4リン酸(IP4)へと
変換するリン酸化酵素(ITPK)のひとつ。
ヒトのITPKC遺伝子は2000年に発見されたが、川崎病を含めたヒトの疾患との
関係については知られていなかった。

1点目は、「病原体に感染するとT細胞が活性化され、インターロイキン2などの
サイトカインを産生するが、同時にITPKCの発現も増えること」。
2点目は、「SNPをもつ(川崎病罹患感受性の高い)ITPKC遺伝子では、
その発現がSNPをもたない場合よりも約30%低い」。
3点目は、「T細胞系細胞株でITPKC遺伝子の発現を抑制したところ、
インターロイキン2の発現が高い」。

ITPKCは、T細胞が過剰に活性化しないためにブレーキをかける役割をし、
SNPによりブレーキ機能が減弱することが分かった。
川崎病の発症時には、血中のインターロイキン2の濃度が高いという
事実ともマッチする。
ITPKC遺伝子のSNPは、「イントロン1」の9番目の塩基がGからCへと置換。
「置換のために、スプライシングで除去されるべきイントロン1が除去されにくく、
未成熟で不安定なITPKC遺伝子のmRNAが増えることが、
ITPKCの発現量変化の原因」。

C型のSNPをもつ人が必ず川崎病になるわけでも、
G型をもつ人が川崎病にならないわけでもない。
「C型をひとつ以上もつ人の川崎病のかかりやすさは、
G型をホモでもつ場合の1.89倍。
日本の川崎病罹患患者の約40%がC型を持ち、罹患したことのない日本人も
27%はC型を持つことがわかった」。

C型のSNPをもつ人がもたない人にくらべて川崎病にかかりやすく、
罹患した際に重症化しやすい。
人種にかかわらず、冠動脈瘤を合併した患者にC型のSNPをもつ人が有意に多い。
「川崎病には、ITPKC遺伝子以外にも複数の感受性遺伝子が存在するはず」、
その同定を急いでいる。
発症のメカニズムは依然として謎のままだが、研究が積み重ねられることで、
重症化を防ぐ新たな治療やリスク診断が確立することが望まれる。

http://www.natureasia.com/japan/tokushu/detail.php?id=79

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