2007年9月20日木曜日

免疫不全症「高IgE症候群」の原因遺伝子を特定

(nature asia-pacific 9月3日)

東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科生体環境応答学系専攻
烏山一教授、峯岸克行准教授

高IgE症候群は、免疫グロブリンのIgEが高値になるほか、
重症のアトピー性皮膚炎や呼吸器の感染症、皮膚膿瘍などを伴う免疫不全症で、
先天性免疫異常の中では頻度が高く、
10万~100万人に一人の割合で発生すると推測。
1966年に疾患の存在が報告されて以来、その病態や遺伝的背景などの
原因、診断方法は不明なまま。

東京医科歯科大学の烏山一教授と峯岸克行准教授らは、
北海道大学、東北大学、藤田保健衛生大学、九州大学、
セルビア・モンテネグロ、トルコの小児科グループとの共同研究で、
この高IgE症候群の原因が、
STAT3(signal transducer and activator of transcription 3)
遺伝子変異で起こることを明らかにした。

高IgE症候群には、非遺伝性あるいはまれに常染色体優性遺伝で
骨粗鬆症や歯の異常が起こるタイプ(Ⅰ型)と、
常染色体劣性遺伝でウイルス感染症が重症化するタイプ(Ⅱ型)に分けられ、
いずれもアトピー性皮膚炎は重症化。

烏山教授らは昨年、Ⅱ型の高IgE症候群でアトピー性皮膚炎を持ち、
細胞内寄生細菌やウイルスによる感染症を繰り返す患者が、
チロシンキナーゼ(チロシンにリン酸を付加する酵素)の一つ、
Tyk2(tyrosine kinase 2)遺伝子の異常を持つことを発見。

この患者の末梢血細胞を、サイトカインで刺激したところ、
IL-6、IL-10 IL-12、IL-23、IFNαといった多くのサイトカインの
シグナル伝達が障害されていることがわかった。
遺伝子解析により、Tyk2遺伝子の変異が見つかり、
細胞に正常なTyk2遺伝子を発現させると、サイトカインへの反応が正常化し、
Tyk2遺伝子の欠損が高IgE症候群に関与していることを証明。

Ⅰ型高IgE症候群の患者の末梢血細胞でも、
IL-6とIL-10のシグナル伝達は障害され、IL-12とINFαの応答は正常。
そこから IL-6とIL-10のシグナル伝達を担う分子の探索が始まり、
STAT3遺伝子の変異が関与することが明らかに。
STAT3遺伝子のDNA結合機能が、4分の1程度に低下していることも。

「STAT3遺伝子の異常によって、IL-6のシグナル伝達がうまくいかないと、
炎症が起こらない。これが、Ⅰ型高IgE症候群の患者さんに
痛みや熱感のない皮膚・肺膿瘍(冷膿瘍)があらわれる理由」。

「Tyk2遺伝子の異常が関与するⅡ型では、抗酸菌に感染しやすいが、
STAT3の異常があるI型では黄色ブドウ球菌に感染しやすく、
膿が出やすいようだ」とその病態の違いを語る。

STAT3は、30以上のシグナル伝達のファクターとして働いている遺伝子。
「今後は、STAT3のシグナル伝達経路のどの部分が強く関与するかを調べ、
高IgE症候群の病態を解明すること、また、一般のアトピー性皮膚炎の患者でも
STAT3遺伝子の異常が起こっているのかどうかを研究したい」。

すでにアレルギー患者の遺伝子の網羅的な解析を共同研究で始め、
STAT3ノックアウトマウスによる病態の解析も準備中。

実際、乳幼児期から重症のアトピー性皮膚炎を患ってきた患者が
後に高IgE症候群と診断された例も多く、
今回の高IgE症候群の原因遺伝子同定によって
遺伝子診断による早期の確定診断ができる可能性が高まった。

高IgE症候群のような原発性免疫不全症は病態がはっきりせず、
診断も治療も進みにくい。
「患者登録によって、遺伝子診断をできる免疫不全症があるにも関わらず、
医師の間で普及していない。
また、高IgE症候群の患者さんが起こす肺膿瘍は
あらかじめ抗生剤を飲むことで予防できるのに、その情報が伝わらない。
免疫不全症に、医師も社会ももっと関心を持ってほしい」。

今回の論文発表の後、ニュースを聞いたアトピー性皮膚炎の患者から
多くの反響が寄せられたという。
烏山教授も峯岸准教授も、この発見が高IgE症候群や
難治性のアトピー性皮膚炎の治療への突破口になればと意気込んでいる。

(小島あゆみ/サイエンスライター)

http://www.natureasia.com/japan/tokushu/detail.php?id=42

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