2007年11月25日日曜日

免疫:「危険」信号

(Nature Reviews Cancer 7(10), Oct 2007)

Toll様受容体(TLR)は、外因性および内因性の「危険」信号を認識するが、
瀕死の腫瘍細胞に対する効率的な免疫応答はどのように起こるのか?

G KroemerとL Zitvogelらは、これまで知られていなかった経路、
化学療法後に死滅しつつある腫瘍細胞がTLRによって認識され、
免疫応答の引き金となる経路について記載。

野生型TLRをもつか、TLR欠損したマウスの足蹠に、
ドキソルビシンまたはオキサリプラチンで治療した瀕死の
胸腺腫、肉腫、結腸癌細胞のいずれかを接種したところ、
腫瘍抗原による再刺激後のT細胞プライミング
(インターフェロンγ産生量を測定)に異常があったのは、Tlr4–/–マウスのみ。

野生型マウスの樹状細胞(DC)が枯渇すると、
瀕死の腫瘍細胞によるT細胞のプライミングは終息。
野生型、Tlr4–/–のいずれかのDCを、瀕死の腫瘍細胞に暴露し、
Tlr4–/–マウスに移入した結果、T細胞を活性化できなかったのは
TLR4のないDCのみであり、免疫応答にはTLR4+ DCが必要。

次に、共沈降法を用いて、瀕死の腫瘍細胞によって放出された
内因性のタンパク質high-mobility group box 1 protein(HMGB1)
危険信号となり、DC上のTLR4に結合して刺激することで
免疫応答を動員することを明らかにした。

この信号が必要な理由は、HMGB1に対する短い二本鎖RNA(siRNA)
または中和抗体と腫瘍細胞とのプレインキュベーションが、
瀕死の腫瘍細胞によるDCの刺激能力を阻害したため。

瀕死の腫瘍細胞に暴露されたMyd88–/– DCは、
Tlr4–/– DCと同じ挙動をみせたことから、
HMGB1を認識したTLR4は、TLRアダプターである
myeloid differentiation primary response protein(MYD88)
通じてシグナルを変換する。

HMGB1-TLR4-MYD88経路は、抗癌剤の効果にどう関与するのか?
Tlr4–/–マウス、またはHMGB1のない瀕死の腫瘍細胞は、
初回注入から1週間後に接種した同じ腫瘍細胞に対して、
効率的な抗腫瘍反応を誘発できなかった。

腫瘍が定着したマウスに、TLR4またはMYD88がなければ、
化学療法も局所放射線療法も、野生型マウスにみられたほどの
腫瘍増殖の抑制や生存期間の延長をもたらさなかった。

以上の所見は、患者とどうかかわってくるのだろうか?
白人の8~10%にはTLR4(Asp299Gly)に多型があり、
これが乳癌に対する化学療法の効果を弱める可能性がある。
この多型がTLR4とHMGB1との相互作用を抑え、
DCが瀕死の腫瘍細胞からの抗原を細胞傷害性T細胞に提示するのを妨ぐ。

また、リンパ節浸潤のため、術後にアントラサイクリン類による治療を受けた
非転移性乳癌患者280例を対象に、転移までの時間を分析。
術後5年までの転移率は、野生型TLR4をもつ患者が26.5%に対し、
変異型TLR4をもつ患者は40%であり、
変異型TLR4をもつ患者の無転移生存率も有意に低かった。

瀕死の腫瘍細胞は、治療の成功に必要な免疫応答を誘発し、
現在の化学療法における免疫原性の改善に利用できる可能性がある。

http://www.natureasia.com/japan/cancer/highlights/article.php?i=60561

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