2008年8月3日日曜日

理科再興(15)科学実験 文系学生も

(読売 7月26日)

科学に対する視野を、文系の大学生に広げる取り組みが続く。

赤、黄、紫、黒。
色とりどりの液体が入った容器が並んだ。
東北大学が開講する「文科系のための自然科学総合実験」の授業。
対象は、文、教育、経済、法学部の1年生。

液体の正体は、学生が持ってきたトマトジュース、ショウガ、ナス、しょうゆ。
学生たちは、食品などに含まれる色素を表面に塗布することで、
より多くの電気を発生させる色素増感型太陽電池を作り、
どの材料が一番多くの電力を生み出せるかを調べる。
賞品も用意され、学生たちもおのずと力が入る。

大学も、新たに器材を購入するなど、講義全体で約5000万円を
投じる力の入れよう。
太陽電池だけでなく、地球温暖化や胚性幹細胞(ES細胞)など
現代的テーマが並び、理系教員19人が
「とことん、文系学生の視点で練り上げた」と自負。

エネルギーがテーマの今回は、資源の少ない日本が、
世界有数の太陽電池生産・利用国であることを紹介。
DNA鑑定の回は、「コメの産地偽装は可能か」、
受精の瞬間を顕微鏡で観察する回では、
「体外受精や遺伝子治療はどこまで許されるか」と問いかけ。

「毎回、社会問題について考えさせられる。
生命の誕生は、法律とも関係が深く、貴重な経験になった」と
法学部の葛西彩子さん(19)。
須藤彰三教授(53)は、「現代社会の基盤である科学的手法を知り、
それぞれの専攻で役立ててほしい」。

今年度の受講者は50人。
設備や費用の面から、受講は文系学生の1割に当たる80人が限界。

慶応大学日吉キャンパスでは、1949年の新制大学移行以来、
文系学生に実験講義をしている。
受講者は、現在約3000人。
文、商、経済、法の4学部の1年生の7割に当たり、他大学をはるかにしのぐ。
物理、化学、生物のどれかを選び、講義と交互に隔週で実験に挑む。
毎日、どこかで実験が行われており、指導する教員らスタッフは
総勢160人と、大学挙げての取り組み。

試験管の中をガラス棒でかき混ぜた文学部の女性は、
「実験は高1以来」と緊張した様子。
手つきはぎこちなかったが、サケの卵細胞のDNAがガラス棒に絡みつくと
「きれい」と目を輝かせた。
法学部の男性は、電卓を片手に実験データとにらめっこ。
指導を受けながら、なんとか公式通りの計算結果を導き出し、
思わずガッツポーズを決めた。

費用と手間をかけた実験講義には、
「専門教科を教えることに力をいれるべきだ」という声もあるが、
講義を統括する表實教授(64)は、
「学生に伝えたいのは、科学的な視野や思考方法だ」と反論。
「実験を通して科学を知ることが、文系学生の財産になる」。
両大学の思いは同じだ。

◆広がる文系学生向け実験講義

慶応大が2006年、全国の4年制大学729校を対象に行った
調査では、94.2%が、文系学生が履修できる自然科学系講義を開設。
うち「実験講義がある」は25.2%(国立28校、公立7校、私立39校)。
調査後にも茨城、東北、山梨大などが実験を含む講義を文系向けに開講。

http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20080726-OYT8T00227.htm

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