2007年8月8日水曜日

見た目気にせず生きられる 体のパーツ、何でも復元 失った小指付け、社会復帰

(共同通信社 2007年8月6日)

「光が見える-再生への助走」「人工ボディー」<1>

暴力団から足を洗おうと相談した男性には、左手小指がなかった。
大阪府警で組員の社会復帰アドバイザーを務める鳴海勇之助は、
「小指やったら、ええところがあるんや」。

見た目が本物とそっくりの人工ボディーを製作する大阪市北区の「工房アルテ」。
500本以上の小指を"復元"した実績を持つ。
府警は元組員15人に紹介。
組抜けを考える組員にとって、失った小指は大きな障害。

「実は今、社長をしてるんです」。鳴海は電話の声を懐かしく聞いた。
8年前、29歳だった男性は人工小指を作り、土建会社に就職したが、
その後何年も連絡が途絶えていた。
「家族や結婚のため」と暴力団を抜けても、
「同僚の見る目がつらい」「また楽な生活がしたい」などの理由で、
元に戻ってしまう人は多い。

だが、男性は大阪市内で起業し、部下もいるという。
「人工小指のおかげかな。頑張ってると分かって本当にうれしかった」。

アルテの人工ボディーは1992年に産声を上げた。
現在は義肢最大手「川村義肢」(大阪府大東市)の一部門になり、5人で製作。
技師の1人、榎本司郎は、
「赤ちゃんから高齢者まで、全身どこでも、どんな肌の色でも作れる」。

全国から注文があり、白人や黒人に納品したことも。

乳がんで乳房を失った女性は、孫と温泉に行けた。
左手薬指を事故で失った女性は、結婚式で指輪交換ができた。
生まれつき耳のない赤ちゃんにも装着。
顔が欠損した人でも、義眼を埋め込んだパーツを着ければ自然な顔に。

「外出が怖くなくなった」。
約2000人の利用者はみな喜んでいるという。

東京都中央区で印刷業を営む芝本和幸は、
昨年2月、激痛に顔をゆがめながらアルテを訪ねた。
転倒して左手を下敷きにしたまま昏睡、血流が止まって壊死し、指2本を切り落とした。
院内感染で膿んだ腕の痛みに、1年間耐え続けていた。

医師は手首からの切断を勧めたが、偽物とすぐわかる義手はどうしても嫌だった。
「都会で生きていくためには見てくれも大事だ」。

親身な医師がアルテを見つけ出した。「どうせ同じだろ」。
その思いは大阪でサンプルを見た瞬間に消え、すぐに手術に踏み切った。
「生まれ変わった気持ち。切断してよかった」。

人工左手首は動かないが、つめや指紋、しわや血管まで再現。
中に金属を入れて強度も上げた。
指の間にたばこも挟めるし、オートマチック車の運転は問題ない。
技能試験を通れば、マニュアル車の免許を取り戻せる。

「大型免許を取って仕事の幅を広げたい」。
芝本は満面の笑みで語った。

作り方は複雑だ。
欠損部分と周囲の型を取り、石こうを流し込んで形を再現。
仮作品を装着し、曲がり具合や違和感など注文を聞いて手直し。
へらで一本一本指紋やしわを彫った仮作品で再び型を取り、
人体用のシリコーンを流し込む。

患者の肌の色や血管は、ゴムに練り込む絵の具で再現。
「職業や年齢で色や形をかなり変える」と榎本。
手を挙げることの多い教師は血の気が引くため薄い色に、
逆に作法の先生は濃くする。
高齢者はしわを増やし、指紋は浅めに彫る。

製作期間は指で1カ月半、大きいパーツだと3カ月。
動かないので、装着しないときより生活は不便に。
保険もきかず、小指でも15万円以上かかる。
それでも依頼は後を絶たず、2~3カ月待ちだという。

納品の日、浜田ヨシエ=仮名=は新しい指を一目見て、少女のように目を輝かせた。
「すごい。早くみんなに見せたい」。
注射針が誤って動脈に入った医療ミスで、左手人さし指を切断して1年余り。
手袋で隠し、人目を忍ぶ生活を送ってきた。
故郷に帰る気持ちにもなれなかった。

「自分へのご褒美に新しい指輪を買っちゃおう」。
境目にはめれば、ほかの指と区別が付かない。人前で手を振れる。ネイルアートもできる。
「久しぶりに実家に帰ろうかな」。
二の足を踏んでいた同窓会にも出るつもりだ。


http://www.m3.com/news/news.jsp?sourceType=GENERAL&categoryId=&articleId=51887

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このような技術があるというのは、驚きです。
指一本欠けているだけで、自分が欠陥のある人間に思えてくる。
そんな引け目を、技術によって解消してくれます。
私たち人間は、決して完全ではないです。
体のどこかに劣等感を感じてしまう。
事故や病気によって、やむを得ず体の一部を失ってしまうことは
本当に辛いこと。
新たな技術によって少しでも克服できれば、
私たちの生活は充実したものに。
このような技術がどんどん発展して欲しいです。

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