2008年7月31日木曜日

理科再興(12)興味わくテーマ提供

(読売 7月23日)

高校生に、科学の心を育てようと教員が奮闘する。

マイナス196度の液体窒素の煙の上で、
ボタン電池のような円形磁石が、震えるように浮かび上がる。
日が完全に暮れた高校の教室で、たった2人の生徒が、
息をのむように磁石を見つめた。

大阪府立成城高校の3部は、午後6時過ぎに授業が始まる定時制。
総合学科2、3年の「電気概論」の授業で、横川敬一教諭(45)が、
超伝導の実験を実演。
「君たちが授業で取ったデータを使って、論文を学会に発表。
論文に成城高校・定時制って載るからな」。
横川教諭がはっぱを掛けると、2人は、照れたような笑顔を見せた。

横川教諭は2000年、大阪市立大学3年に編入学。
現在は、大学院で電子物性学を学び、超伝導などの研究も続ける。

定時制には、「自分は学力がない」、「先生も授業の手を抜く」と
初めから思いこんでいる生徒もいる。
そんな姿に悔しさを感じ、「最先端の研究に触れさせ、
達成感のある授業がしたい」と、昨年から超伝導を授業に組み入れた。

今年、電気概論を選択した生徒は4人。
仕事や家庭の事情もあり、全員そろわない日がほとんど。
それでも生徒は真剣で、鉛筆の芯で電気抵抗を測る訓練をしながら、
超伝導の仕組みやデータの取り方、用語を覚えていく。

授業を受ける近藤悠輝君(17)は、
「内容は難しいけど、ゆっくり考えれば理解できる。
将来、こんな仕事をしてみたい」。
授業は昨年の実績が評価され、科学技術振興機構の
サイエンス・パートナーシップ・プロジェクトに選ばれた。

高度な実験も、大学の支援があってこそ出来る。
横川教諭を指導する大阪市大の村田恵三教授(58)は、
「熱い思いを持つ先生が指導するのに、協力は惜しまない。
定時制であることは関係ない」。

福井県鯖江市の県立丹南高校は、月1回のペースで昼休みに
物理、化学、生物の科学実験をする講座
「ランチタイムサイエンス」を始めて4年。
実験場所は、パンなどを買いに来る生徒が足を止めやすい
購買部近くの廊下。

海の生物がテーマ。
西出和彦教諭(47)が、近くの漁協の協力で採集したウニやヒトデ、
ウミウシなどを水槽に入れ、生徒を待ち受ける。

昼休みは40分。実験は正味30分。
ウニの口から塩化カリウム溶液を入れて放精を促し、
顕微鏡の画像をモニターに映す。
実験に積極的な生徒、水槽の生物をつかんで楽しむ生徒、
物珍しそうに見守る生徒。
接し方は様々だが、西出教諭はそれで十分と考える。

「地方の学校は、科学館や自然観察会などの仕掛けが少ない。
体験しようとしない子は、都会よりも体験が少ないくらい。
生徒の日常会話に、少しでも昼休みの実験講座や科学の話題が上ればいい」

高校は多くの生徒にとって、学校で科学を学ぶ最後の機会。
科学を身近に感じる心を育てる知恵を絞ってほしい。

◆サイエンス・パートナーシップ・プロジェクト(SPP)

大学や科学館などと連携した、科学技術や理数への探究心を高める
学習活動の支援事業で、2006年から実施。研究者、技術者らが
実験などの講師をする「講座型」、夏休みなどに生徒を公募する「合宿型」。
今年度は1077件が採択、2135校が参加の見込み。

http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20080723-OYT8T00216.htm

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