2008年8月2日土曜日

理科再興(14)高校教員に最新の知

(読売 7月25日)

最先端の科学知識を吸収して授業を作ろうと、高校教員が勉強に励む。

東京・飯田橋の区政会館に、首都大学東京の生涯教育施設がある。
4月からほぼ週1回、高校教員や教員を目指す大学院生向けに、
生物の授業技術を学ぶ講座が開かれた。

講座のテーマは「DNAと遺伝」、12人が参加。
受講者による模擬授業と討論の後、同大生命科学専攻長の
松浦克美教授(56)がプリントを配る。
「突然変異とは何か」、「老化の原因は何か」など、
生徒から出ることを想定した疑問や論点が約30項目並ぶ。

「この中の何を知りたいか。自由に議論、質問して」。
松浦教授の呼びかけに、進化が話題になった。
「小進化と大進化の違いを、高校生にどう教えるか。
本によっても定義が違い、戸惑っています」

松浦教授は、早ければ数世代で変化が現れる小進化、
化石などで観察できる大進化を区別する考えが、
ゲノム研究の進展に伴い重要でなくなり、
両者の区別を大学で教える機会は減っていると説明。

「今は用語の区別より、進化の出発点に突然変異があり、
その繰り返しによって進化が進む筋道を理解させる方が大事」

1時間半の講座の中で質問や討論を求めるのは、
学校でも教科書を教えるだけでなく、質問や意見を引き出す
授業をしてほしいと考えるから。
教員が生徒の疑問に答えるには、最先端の生物学を自ら学ぶ必要がある。
「新聞や科学誌を読むだけでは、最新の情報を教えるのは難しい。
第一線の研究者を交えて、生物学の議論ができるのがいい」と
受講生の一人、東京都立新宿山吹高校の南洋史教諭(35)。

同大は、高校教員向けに、生物学の知識や技術、授業法などを教える
公開講座を、夏休みなどの単発も含めて、9講座開く。
都内の高校教員研究会の依頼で、2001年に最初の講座を開いた。

松浦教授は、03年から2年間、都立大付属高校の校長を務め、
高校教員が、最新の生物学を学ぶ時間や余裕がないことを痛感。
日進月歩の生物学は、高校で教えていた常識が覆ってしまうことがあり、
生物の教科書の内容は、あまり変化がなく、
高校教員も最新の知識から取り残されているのが現状。

生徒は、大学に入ると知識を学ぶだけでなく、自分で疑問点を見つけ、
実験方法を工夫し、研究成果を出す姿勢が問われる。
高校教員の教育は、生徒の高校から大学への学習を、
スムーズに橋渡しすることにも直結する。

「科学技術者の養成と、科学リテラシーの定着の双方を実現するには、
最新の科学知識を元に、生徒に科学の本質の理解と、
科学的な思考力を養わせる、力のある理科教員が必要」

同大は、これまでの講座で培ってきたカリキュラムを、
質の高い理科教員を育てる研修に応用することも検討。
大学発の生物学の授業を変える試みが、高校の理科教育に風穴を開けるか。
その成果に注目が集まりそう。

◆科学リテラシー

自然や科学に対する適切な知識を持ち、論理の積み重ねである
科学の考え方を理解し、外部から科学的な情報を与えられた時に、
知識を活用して合理的な判断や行動ができる能力。
こうした問題解決の能力を一般国民に広げ、共有する意味でも使われる。
日本の子供は科学知識は多いが、
科学リテラシーが弱いことが指摘。

http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20080725-OYT8T00284.htm

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