2007年11月10日土曜日

異常タンパクの抗体を測る、新しいコンセプトの腫瘍マーカーを開発

(natrue asia-pacific)

千葉大学医学部先端応用外科 島田英昭講師

新しい腫瘍マーカー“MESACUP anti-p53テスト”が、
厚生労働省の製造承認を受け、7月から販売。
食道がん、乳がん、大腸がんの診断の補助として使われ、
年内にも保険収載される見通し。

島田英昭講師は、食道がんの専門医。
食道がんは、発見されたときには進行している例が多い、難治がんの一つ。
そのため、早期の段階で発見したいという強い思いがあった。

がん抑制遺伝子であるp53遺伝子が作り出すタンパクは、
正常であれば、傷ついた遺伝子の修復、細胞周期の制御、
アポトーシスの誘導といった働きを持つが、
異常になるとその働きがなくなり、がんになりやすくなる。
とくに固形がんは、p53タンパクが過剰発現する頻度が高い。

島田講師らのデータでは、食道がんでは62%、肺がんでは59%、
大腸がんでは55%に異常なp53タンパクが過剰に出現し、
これは、p53遺伝子の異常の頻度とほぼ対応。

この異常なp53タンパクは不要な異物であるため、
IgG(免疫グロブリンG)抗体を作り出して、排除しようとする。
IgG抗体を検出することで、異常なp53タンパクの出現を明らかにし、
発がんの有無や進行を推測する方法が検討されてきたが、
腫瘍マーカーとして臨床で使われるには至らなかった。

島田講師らは、治療前のがん患者や健康診断でがんが見つかった人には
IgG抗体の陽性率が高くなることを発見。
大規模な臨床試験を実施し、その結果を踏まえて、
2001年に厚労省に製造承認申請を出した。

現在使われている腫瘍マーカーは、
国際的に“がんからの分泌物を測定するもの”と規定、いわば抗原を測る。
これに対し、“MESACUP anti-p53テスト”は抗体を測定するという
新しいコンセプトの世界初の腫瘍マーカー。

その特徴は、早期発見に使えること。
がんには0期からⅣ期までのステージがあり、
数字が大きくなるほど、がんが進行。
従来の腫瘍マーカーは、がんの進行度と相関して陽性率が高まるため、
発見時には、Ⅲ期やⅣ期まで進行していたという例が多い。

IgG抗体は、がんが約1mm3(がん細胞が約100万個)ならば、血中に流出。
IgG抗体の血中濃度は、がんの進行度とは強い相関がなく、
“MESACUP anti-p53テスト”を従来の腫瘍マーカーと比較すると、
ステージ0期とⅠ期のがんで陽性率が有意に高くなる。
その理由を、「早期では、人体はがんと対抗するためにIgG抗体を産生するが、
進行すると免疫反応が減弱して、IgG抗体を多く出そうとしなくなるのでは」。

「“MESACUP anti-p53テスト”を、ほかの腫瘍マーカーと併用することが
がんの検出率を上げることができる。
例えば、食道がんでよく使われるSCCとCYFRAは
ステージ0期やⅠ期における陽性率は10%前後だが、
“MESACUP anti-p53テスト”単独では20%以上で、
組み合わせることで陽性率が上がり、がんがある部位も特定しやすくなる」。

また、治療後にIgG抗体値が高かった人は再発しやすく、
低かった人は再発しにくいという傾向が。
抗がん剤など今後の治療の進め方の判断に
“MESACUP anti-p53テスト”が使える可能性がある。

ヒト免疫グロブリンの中でも最も量が多いIgG抗体は、
がんとの関連が知られていたが、その詳しい役割は未知な部分が多い。
島田講師らの研究は、IgG抗体の機能の解明に寄与するかもしれない。

島田講師は、健康な4000人以上の血液データを蓄積しており、
すでにIgG抗体以外のがん関連抗体を発見。
今後は、IgG抗体を含む、いくつかの抗体腫瘍マーカーをチップ上に並べ、
一度に計測する方法を開発する予定。
日本発の新しい腫瘍マーカーの今後が注目される。

小島あゆみサイエンスライター


http://www.natureasia.com/japan/tokushu/detail.php?id=50

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