2008年9月13日土曜日

教師力08(11)社会で役立つ「聞く力」

(読売 9月9日)

社会に出てから役立つ国語力をつけさせようと、工夫する教師がいる。

机がコの字形に並んだ東京都小平市立小平第五小学校の教室。
2学期最初の国語の授業で、松野泰子教諭(31)の問いかけに、
児童が次々と立ち上がって発言。
同時に立ち上がってしまった時は、うまく譲り合って発言がとぎれない。

「それでは少し交流しましょう」。
児童は一斉に立ち上がると、2、3人ずつ集まってノートを見せ合い、
詩を読んだ感想や疑問点を話し合い始めた。
「へぇ~。おもしろい意見だな」、「私も不思議に思った。同じだね」。
全員の前で発言できなかった子も、友達同士で話し合ううち、
自信がついた様子。その後の授業は、ますます活気づいた。

松野教諭が目指すのは、他人の意見を聞く姿勢を育てる授業。
コの字形は、お互いの表情を見ながら
自分の考えを深めてほしいと取り入れた。
「自分の考えを持つには、他人の考えを的確に知ることが必要」。
その考えの根っこには、企業社会での経験がある。

大学を卒業したのは、「就職氷河期」。
卒業前に「なぜ働くのか」、「自分にとって仕事とは何か」を真剣に考えた。
漠然と教員にはなりたいと思いながらも、
「なぜ、教員でなくてはならないのか」という答えを見つけられなかった。
「大学を卒業して、すぐに教壇に立つ教員は世間知らず」と批判。
「一度は企業に勤めてみよう。どうしても教員になりたくなったら、目指せばいい」
と気持ちを切り替えた。

入社した人材派遣会社で、社内のシステム管理や営業まで
幅広く仕事を任された。
仕事に必要な予備知識が何かは、自分で考え、学んでおくのが当然
という業界の厳しさを学んだ。
営業に行くときには、相手の会社の状況を調べて、会話の糸口を必死に探った。
自然にメモを取る習慣が付き、短時間の会議では、
相手の発言の趣旨を素早く理解することや、
資料を読んですぐ自分の考えが求められることを思い知った。

「やっぱり教師になりたい」と思ったのは、入社から数か月後、
臨時でパソコン教室のインストラクターを務めた時。
「真剣に学ぶ姿、喜ぶ姿を見て、思いが込みあげてきた」。
それからは働きながら猛勉強し、社会人になって2年後、教員に採用。

今は、東京都教育委員会が若手の授業力向上のために行っている
長期研修「東京教師道場」にも通う。
「少しでも多くのことを学び、自分らしい授業を作りたい」

最近は、人の意見の趣旨を書き出す力をつける授業にも熱心。
新聞のコラムなどを読み上げ、内容を個条書きにメモさせる。
中学進学の準備という側面もあるが、一番の理由は
「将来、仕事をして生きていくのに必要な力だと思うから」だ。

「小学校だからこそ、総合的な国語力をつけさせたい」。
視線の先には、10年後、20年後の子供たちの姿が映っている。

◆新規採用教員の年齢

3年ごとに実施される文部科学省の学校教員統計によると、
2003年度中に全国で採用された国公私立の小中高校教諭
1万9392人のうち、24歳以下は36.7%。
平均年齢は小学校27.5歳、中学校28.6歳、高校30歳。
人材確保のため、受験資格年齢の引き上げや撤廃、
社会人特別選考制度を設ける教育委員会が増えている。

http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20080909-OYT8T00230.htm

0 件のコメント: