2008年9月12日金曜日

「博士が選ぶ有望技術」連動記事 西澤潤一氏インタビュー

(日経 8月24日)

西澤潤一・首都大学東京学長

―注目する技術はなにか?

光よりやや波長が長い、テラヘルツ波が面白い。
有機物の検知に活用できるので、がんを発見する医療機器に使える。
がんの発見や、薬を飲んだときに、
体の中でどのような化学物質に変化するかを調べることができる。
テラヘルツ研究所が先端の研究を進めている。

―エネルギー問題にも関心がある。

二酸化炭素(CO2)を出さない水力発電の利用が理想的。
水力で発電した電力を長距離で運ぶには、直流送電が必要で、
特殊な半導体を使えば直流から交流に変換できる。
直流送電は、スウェーデンが進めようとしているほか、
中国の三峡ダムから上海までも直流送電。
日本では、関西電力が瀬戸内海で直流送電の実験、
10年間無事故と実績が積み上がってきた。
日本でこれ以上ダムを増やすのは難しいとしても、
直流送電なら地球の裏側からでも送電できる。
国では、CO2を集めて地底に圧入する方針のようだが、
岩盤の小さな穴から35年後にガスが噴出してしまうという人もいる。
CO2を出して圧入するという不確実な方法より、
ガスを出さない水力発電と直流送電の利用のほうが望ましい。

エネルギーの量は少ないが、バイオマスも注目。
製紙産業で発生するリグニンを発酵させてアルコールにするなど、
非食料の廃棄物をうまく利用する技術に注目。

―日本では独創的な技術が生まれにくいのか?

独創的な研究や発見に理解を示す人が少ない。
私が発明した半導体レーザーでアイディア特許を出した時、
日本では理解されず資金がつかなかった。
米国で、軍の研究費の配分を決める人にちらっと話をしたら、
米国で瞬く間に半導体レーザーが出来上がった。

私が発明した光ファイバーの活用にも、米国がいち早く取り込んだ。
米統合参謀本部からブラッドレー氏が、
米国の不景気脱出のアイディアを探しに来た際に、
椎名素夫さんに呼び出されて、三島の淡島ホテルで、
米国は新製品開発をすべきだと話した。
お付きの人から具体的に何をやればいいかと問われ、
情報通信をやったらいいと話したら、2週間後にゴア副大統領が
マルチメディアスーパーハイウェー構想を打ち出した。

後に加藤紘一政調会長(当時)に呼ばれ、同じことを言ったら、
日本では携帯電話の普及につながったが、
空前の大景気を迎えた米国からは遅れを取った。
独創技術を生み出すには、教育から変えないと難しい。
戦後の悪平等教育をやめて、戦前の旧制高校の復活が望まれる。

<西澤潤一氏 略歴>
1926年生まれ。48年東北大学工卒、東北大学電気通信研究所教授、
同所長、東北大総長を経て、現在は首都大学東京学長。
PINダイオード、半導体レーザー、光ファイバーを発明するなど
独創的な研究で知られる。文化勲章、勲一等瑞宝章受章。工学博士。

http://veritas.nikkei.co.jp/features/12.aspx?id=MMVEw2011022082008

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