2010年11月28日日曜日

ドイツのスポーツ政策

(sfen)

◆ドイツのスポーツ政策と基本法

ドイツ連邦共和国のスポーツ政策は、連邦内務省が担当。
全ドイツを代表するトップアスリートの支援や
国際大会の招致開催などを所管、
国民一人ひとりのスポーツに関しては、各州を基本に
各自治体が主体的に取り組んでいる。

ドイツは、連邦制を導入し、国防や外交など国益を代表することに
関してのみ連邦政府が行う、という政治の仕組みによる。
連邦レベルにおいて、内務省だけでなく労働社会省、国防省、
家族・高齢者・婦人・青少年省、教育・研究省などでも、
スポーツに関する連邦政府予算が計上、
各々の政策領域でスポーツの普及発展にかかわっている。

各州のスポーツ政策を調整し、連携を図るため、
「州スポーツ担当大臣連絡協議会」が設置、
各州当番制で事務局を運営。

ドイツは、主務官庁が一本化、基本法に基づく厳格なスポーツ政策が
行われているように思えるが、スポーツのための基本法は
制定されておらず、一本化も行われていない。

基本法として、唯一「ドイツ連邦共和国基本法」(1949年)が存在、
憲法にあたるものとして位置づけ。
基本法では、特にスポーツに関する条項は見当たらないが、
国民のスポーツに関する権利を読み取ることはできる。

スポーツをする権利を、自由権として国民に保証
スポーツクラブは、「結社」の自由権として基本法により保護。
いくつかの州において、スポーツ振興のための法律を定めているが、
法律でスポーツを規定し、制約する考えはない。

◆ドイツスポーツ憲章の存在

第二次大戦前、スポーツが一時政治に利用された歴史を持つドイツ。
1966年、ドイツスポーツ連盟(DSB当時)は、ドイツスポーツ憲章を制定、
“スポーツはすべての人のためにある”と宣言。

この憲章は、1975年「欧州みんなのスポーツ憲章」、
ユネスコ宣言(1978年)へと発展、ドイツのスポーツ振興の
具体的な道筋を定めてきた。
2000年(DSB50周年記念)、ハノーバで新たなミッションステーツメント
(行動指針)の発表に至っている。

スポーツ基本法こそないドイツであるが、民間団体が制定した
スポーツ憲章の存在は、スポーツ基本法に代わるものとして評価、尊重。

◆民間団体主体によるスポーツ振興支援

1950年、再興したドイツスポーツ連盟(DSB当時)は、
「第二の道」(1959)を発表、国民のスポーツ振興に尽力した。
スポーツ施設整備指針を提示した「ゴールデンプラン」
(1960年ドイツオリンピック協会DOG)、「トリム運動」(1970年DSB)の
推進などは、全て民間団体が中心となって推進、
連邦政府、州、自治体の賛同および支援を受け、今日に至っている。

財政的な支援として、民間企業などの支援も大きな存在。
2006年、ドイツスポーツ連盟(DSB)はナショナルオリンピック委員会と
合併、ドイツオリンピックスポーツ連盟(DOSB)に改組。
現在会員数、27,553,516人(国民の33.6%)。

州スポーツ連盟に所属する90,897の地域スポーツクラブに加入し
活動している者は、23,693,679(国民の28.89%、DOSB, 2009)。

わが国の日本体育協会に相当する民間組織の果たしている
功績は多大で、スポーツクラブに属さない人々のスポーツ振興に大きく貢献。

◆スポーツ振興の原点「地域スポーツクラブ」

民法に基づき、7人以上の非営利団体は、総て登記社団として法人化。
約100万ともいわれる社団の1類型として、
約9万の地域スポーツクラブが存在。
会員数の規模や共益性あるいは公益性など活動内容に関わらず、
どのようなクラブも同じ社団として社会的に認知され、
同等の権利を保有。

クラブ会員のクラブライフを創出することに重きを置いているが、
地域に数多く存在し、多岐にわたるニーズに対応していること、
地域社会の課題解決に寄与する可能性が高いことなどから、
その存在価値は高く評価、地域社会そして会員自身が
その存在と活動を担保している。

個人の権利であるスポーツを担保し、個人がスポーツにおいて
自立することを支援する地域スポーツクラブは、
ドイツにおけるスポーツの象徴かつ原点であり、
政治の介入はもちろん許されていない。

◆国民目線のスポーツ戦略づくりへ

スポーツ立国戦略の策定、スポーツ振興法の改定、
新スポーツ振興基本計画の策定、スポーツ庁の設置などが
検討されているわが国は、新たなスポーツの時代を迎えようとしている。

戦略や法律、計画が国民のスポーツを規定し、
スポーツを「させる」仕組みを担保するのではなく、
国民が自らスポーツを自由に「する」仕組みへと、
展開することが望まれる。

トップアスリートも含めた、国民の一人ひとりの笑顔が見える
総合的なスポーツ戦略を、ドイツではドイツオリンピックスポーツ連盟
(DOSB)や種目別競技連盟などが明確に指し示しており、
国民のスポーツをする権利を担保する国民の代表機関としての
役割を確立している。

国民、民間主体のスポーツビジョンが展開されれば、
政策はそれらの支援策の充実が主体となる。
ドイツのスポーツ政策から、わが国の展開をみた場合、
事業仕分けからスポーツを守り、スポーツ関連予算を確保し、
関連団体組織の権益を守るためのシステム整備ではなく、
個人そして民間団体の利益を担保し、より自由なスポーツ活動の
発展を支援する体系づくりであることが期待される。

基本法がなく、スポーツ庁がなくても、国民一人ひとりが
スポーツの素晴らしさと重要性を認識し、自らがスポーツを
実践するとともに、自分の好む地域スポーツクラブに参画する
環境が整えば、スポーツ立国が具現化されることを、
ドイツは約60年かけて立証。

◎佐藤由夫

関西国際大学人間科学部教授/日本自由時間スポーツ研究所所長
日本生涯スポーツ学会副理事長
日本人間工学会評議員 元国際余暇スポーツ施設研究協会
日本連盟事務局長(iaks:本部ケルン・ドイツ)

長年ドイツのスポーツ振興方策の研究に従事。
著書「欧州に見るスポーツ施設30」体育施設出版、
共著「スポーツクラブ白書2000」厚有出版、
「生涯スポーツ実践論」市村出版、
「スポーツ白書2006」笹川スポーツ財団、
連載「海外スポーツ施設シリーズ」月刊体育施設1984年2月~隔月、
体育施設出版。

http://www.ssf.or.jp/sfen/sports/sports_vol9-1.html

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