2007年10月5日金曜日

アルツハイマー:ワクチン飲んで治す 脳の「老人斑」撃退

(毎日新聞 2007年9月21日)

認知症の代表的な病気であるアルツハイマー病といえば、
不治の病のイメージが強い。
しかしここ数年、治療法につながる有望な研究が進み、
「飲むワクチン」で治る時代が目の前に迫ってきた。
9月21日は、「世界アルツハイマーデー」。

★免疫機能を利用

田平武・国立長寿医療センター研究所長は、
「治療法がここまで進むとは夢にも思わなかった」と、
最近のワクチン療法の進歩を語る。

アルツハイマー病患者の脳に共通して見られるのは、シミのような老人斑。
老人斑の主成分は、神経細胞を殺すアミロイドベータ(Aβ)たんぱく
脳に蓄積して塊となると、神経細胞が次々と死に、記憶障害などが起きる。
治療の焦点は、この老人斑をいかに減らすかだ。

約10年前、突破口を開けたのは米国の研究者。
マウスにAβたんぱくを注射したところ、脳内に抗体ができ、老人斑が減ることを確認。
毒性のないウイルスや細菌を注射して、免疫反応を起こして抗体をつくるワクチンと
同じ手法が、アルツハイマー病の治療にも通用することが明らかに。

99年には米国の製薬会社が、患者約300人を対象に
Aβたんぱくを注射する臨床試験を始めた。
途中で約6%の人に脳炎の副作用が起き、試験は中止。
だが、その後の研究で多くの患者で老人斑が消え、
認知機能の低下が抑えられたことが分かった。

★サルで有効性確認

田平さんらは、「脳炎を起こさないワクチン作り」を目指した。
方法としては、Aβたんぱくを作り出す遺伝子を組み入れた
ウイルスベクター(遺伝子の運び屋)を口から摂取し、腸管で抗体を作らせる。

マウス実験の結果、老人斑は著しく減り、
迷路テストでも認知機能が良くなったことが分かった。
老齢のサルでも老人斑が減った。
いずれの場合も、副作用の脳炎は起きなかった。

「経口ワクチンの将来性を確信した」。
多くの患者から、「経口ワクチンを試したい」との声が届いているが、
日本での臨床試験は安全性のハードルが高い。
田平さんは各種学会で日本の企業にワクチンの開発を呼び掛けたが、
賛同企業は見つからず、手を挙げているのは米国の大学や研究機関。
 
★コメで研究も

「食べるワクチン」を開発する試みも行われている。

独立行政法人・東北農業研究センター(盛岡市)は、
Aβたんぱくを作り出す遺伝子組み換え稲を栽培。
米を食べて、アルツハイマー病を治すのが狙いで、
現在、マウスでの実験を実施。
吉田泰二上席研究員は、「実用化は簡単ではないが、将来性は高い」。

現在、日本で認可されている治療薬は塩酸ドネペジル(製品名アリセプト)だけで、
認知症の進行を遅らせる効果はあるものの、根本的な治療薬にはなっていない。
ワクチン療法は、根本的な治療薬として期待。
田平さんは、「あと数年で治療法の糸口が生まれるところまで来た」と
日本独自の経口ワクチンに期待するが、米国から逆輸入される可能性が高そう。

http://www.mainichi-msn.co.jp/science/medical/news/20070921k0000e040076000c.html

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