2008年1月11日金曜日

口粘膜 角膜再生 特殊培養皿で実現

(東京新聞 2007年12月4日)

口の粘膜から角膜をつくり、目に移植して視力を取り戻す。
そんな再生医療の実用化が始まっている。
細胞を薄いシート状に培養できる特殊な培養皿が、大きな役割。
応用が進めば、皮膚の下に肝臓もつくり出せる。

東北大医学部の西田幸二教授らは、細胞培養で角膜の表面を覆う
「角膜上皮」をつくる再生医療の方法を開発
これまで約20人が治療を受けた。
角膜は「上皮」「実質」「内皮」の三層構造で、上皮は代謝して生まれかわる。
だが、病気や事故で新しい上皮をつくる幹細胞が死ぬと代謝が止まり、
角膜が白濁して視力が極端に落ちる場合が。

治療では、どちらかの目に幹細胞が残っていれば、2ミリほど切り取って
直径約2センチの培養皿に載せ、細胞をシート状に増殖。
このシートを損なわれた角膜表面に移植すると、新しい上皮として働く。
自分の細胞なので、拒絶反応もない。
両眼を損傷した場合でも、口内の粘膜細胞から“角膜上皮”をつくれる。
粘膜を取って培養すれば、上皮そっくりのシートができて移植すると働く。

これまで実用が広がらなかったのは、
シートが培養皿からはがせなくなる問題があった。
培養した細胞は、「のり」の役目をするタンパク質を出して皿に張り付く。
無理にはがすと破れ、酵素でのりを溶かすとシートも損なわれる。

西田教授は東京女子医大と共同で、角膜上皮用の特殊な培養皿を開発。
この皿は「温度応答性培養皿」の技術を使い、
温度を少し下げると表面の性質が変わってシートが浮くので簡単にはがせる。

「上皮の組織が比較的簡単な構造で移植しやすいこと、
皮膚の培養技術を使えたことに加え、
培養皿ができたことで再生医療が実現できた」。

治療法は、西田教授が2年前まで在籍した大阪大で開発。
東北大でも体制を整えて来年に治療開始する予定。
「治療を始めて5年。移植した幹細胞が、長期間働き続けるか研究が必要。
実質や内皮の再生の研究も進み、将来は角膜全体の再生医療も可能に」。

●培養皿、食道再生などに応用

角膜表皮の再生医療を実現した「温度応答性培養皿」は、
東京女子医大の岡野光夫教授が1980年代後半に提案。
大和雅之准教授は、「培養皿の底には、温度で性質が変わる高分子を、
ちょうど20ナノメートルの厚みで皿に付けてあります」。

この高分子は、細胞培養に適した32度以上の温度では、
クシャクシャと縮んで細胞の「のり」が付きやすいが、
それ以上温度を下げると伸びて「のり」をはがす。

細胞をシート状に培養できるようになったことで、
角膜以外の再生医療にも応用。
「来年2月には食道の再生も予定」。
内視鏡手術で食道がんを取ると、手術後に食道が縮んで閉じる場合が。
患者の口の粘膜細胞をシート状に培養して傷口に張れば、閉塞を防げる。

「SFみたいに聞こえるが、シート状に培養した肝臓組織を
皮下に移植すれば血友病などが治療できる」。
特定のタンパク質がつくれない血友病は、肝臓の数%が正常に働けば治る。
正常な肝細胞を培養して数%分をつくり、
移植の簡単な腹部などの皮下に埋める方法。
最初に数グラムの細胞があればよく、提供者の負担が非常に軽くなる。

大橋一夫特任准教授は、「技術的な面で障壁はない」。
肺や心臓の治療への応用研究も進んでいる。

http://www.tokyo-np.co.jp/article/technology/science/CK2007120402069600.html

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