2008年3月19日水曜日

超高齢社会を生きる/シリーズ4 後期高齢者医療

(毎日 3月16日)

老人がニコニコしている国が、きっと幸福な国。
若者も、将来への不安を抱くことなく、毎日の生活を送ることができる。
わが国は、平均寿命が長足の伸びを示し、超高齢社会を迎える。
老人は、本当に幸せそうな顔つきをしているのだろうか?

◇74歳までは元気を維持

日本人の平均寿命は、男性79・00歳、女性85・81歳(06年)。
65歳以上の高齢者の割合は、20・6%に達し、
2055年には40・5%を超えると予測。
高齢者は、74歳までが前期高齢者、75歳以上が後期高齢者。
近年の前期高齢者は、心身ともに若々しく壮年とさほど変わらない
元気さを維持している人が目立つ。
年齢別の日常生活活動度(ADL)では、この10年でADLは10年若返った。

京都大学の松林公蔵教授の研究によって、
00年に75歳以上のADLは、92年には65歳以上と同じ。
杏林大学医学部高齢医学教授の鳥羽研二さんは、
「平均寿命を超えた人を、高齢者と考えたらよい」と提案。
尿失禁、難聴、認知症など老年症候群を2、3持つと、
生活の依存度は3~6倍高くなる。

ADLが損なわれた状態こそが高齢者であり、平均寿命を超えたころが顕著。
65歳を過ぎると、脱水、骨関節変形、視力低下、発熱などがあらわれ、
80歳を超えるとADL低下、骨粗しょう症、嚥下困難などを訴える。

◇大きな病気、老化を促進

高齢者の健康度には個人差が大きく、
カレンダー年齢をもとにした対策だけでは限界。
老化は、大きな病気、緊急入院によって、一気に加速される。
2回目の入院をすると拍車がかかり、筋萎縮、関節拘縮、褥瘡(床ずれ)、
骨粗しょう症、便秘・尿失禁などの廃用症候群があらわれる人が多い。

病気が生活レベルを低下させ、次の病気の火種となる悪循環に。
肺炎でも高熱が下がれば、起きて、体を動かすことが重要。
寝たきりが続くと、筋肉の萎縮が進行、退院後のADLは極端に悪い」。
健康力の高まりに合わせ、高齢の入院患者であっても、
元気に在宅復帰を目指す医療が行われる。

加齢とともに患う病気が多く、飲まなければならない薬も増えるが、
高齢者は、腎臓の機能も衰え、薬の排せつ力が落ち、
服薬数が増えれば増えるほど、副作用の発生頻度が高くなる。

漢方からのアプローチは、複数の症状からなるある状態に対して処方され、
薬が少なくてすむというメリット。
また認知症、徘徊、幻覚、睡眠障害などに抑肝散が有効。
抑肝散は、赤ちゃんの夜泣きの治療に用い、
幻覚や興奮を穏やかにする働きがあり、認知症治療に応用。
超高齢社会の医療のあり方が、治療の現場でも、模索。

◇死見据えた初の仕組み

後期高齢者医療制度がスタートし、医療は超高齢時代へと大きくシフト
ホームケアクリニック川越院長の川越厚さんは、
死を見据えた初めての医療システムと高く評価。
「着陸態勢に入った高齢者の生活を理解、最良の医療を提供する時代」。

川越さんは、実地医家として在宅ホスピス活動を、
看護師、ボランティアの人たちとチームを組む。
病院で亡くなる人が80%超だが、在宅で終末期を送りたいという
患者・家族の願いには、十分に応えられるだけの態勢。
ヘルパーに支援を頼むことは、特別なことではない。

痛みを管理するためのモルヒネ、高カロリー輸液による栄養補給、
呼吸困難に対する在宅酸素療法の利用など、
家庭でも病院と同じ条件での医療提供が可能。

家族だけの力で患者をみていた時を100とすれば、
40~50の力を出せば、在宅での医療ができる。
介護のために仕事をやめてしまう人が多かったが、
ヘルパーを頼むことで仕事を続けることができる。
1人住まいの高齢者であっても、充実した在宅医療を受けることが可能。

終末期の在宅医療をスムーズに行うため、
医療者側と患者側が情報を正しく共有することが不可欠。
患者側が望んでいることを、わだかまりなく、はっきりと伝えること。
医療者側にまかせっきりで、トラブルに一方的に医療者側を非難するだけでは、
満足できる終末期医療を望むすべはない。
「どのような終末期を送りたいかを明確にし、方法を探り、
希望を医療者側に伝える。患者側も主体性を持つこと」。

将来自分が受ける医療に希望を伝える「事前指示書」の必要性があり、
自分自身の問題として、終末期医療のあり方を考えなければならない。
==============
◇「生涯現役」を超えて--東京大学教授(老年学)・秋山弘子さん

日本は人口の3分の1を高齢者が占める時代が、目前に。
80歳代後半から、90歳代、100歳代の超高齢者が急増。

生涯現役を目標とするsuccessful agingの考え方が広く受けいれられ、
高齢になっても、健康で自立し、生産活動に従事して、社会に貢献。
高齢者が、生き生きとして働ける社会こそが理想。
背景には、キリスト教プロテスタントの教理の影響。

個人差はあるが、75歳くらいまでは、
医学の進歩や食生活の改善などが、それを可能に。
超高齢期を迎えると、完全なる自立を維持することは難しく、
老いを受け入れなければならない。

successful agingにとって、自立し、生産的でないことは、落伍を意味。
自立がイデオロギー化してしまった欧米先進国では、
人に支援を頼む、依存をすることを避け、結果的に高齢者を孤立させる。
画一的なsuccessful agingの理念が、高齢者を不幸にしていると指摘。

現在、老いを自然の摂理とする仏教に代表される東洋の死生観や、
人とのつながりを重視する共同体の視点からとらえ直す動き。

超高齢者研究はスタートしたばかりだが、
超高齢社会に対応する社会システムを作るための学際的な研究が、
今、強く待ち望まれている。
長寿社会のトップを走る日本から、積極的に発言をしていく時代が来た。

http://mainichi.jp/select/science/archive/news/2008/03/16/20080316ddm010100155000c.html

0 件のコメント: