2008年3月21日金曜日

理系白書2008:番外編 政治と科学、相互理解目指す--英国

(毎日 3月16日)

食の安全や地球温暖化、先端医療など、
科学技術が政策に影響する事例は増えている。
しかし、政治家と科学者の連携不足のため政策を誤ることも少なくない。
英国では、政治家と科学者がペアを組んで、
相互理解を深めていく取り組みが、学術団体主導で進められている。

◇王立協会が01年から

この取り組みは、「社会の中の科学」をスローガンの一つに掲げる
学術団体「英王立協会」が、科学者出身の国会議員の支援を受けた。
政府や同協会の研究費を支給されている若手科学者と、
彼らの地元選出の国会議員とを組み合わせる。

初年度は6組のペアで試行し、現在は25組。延べ約140組が参加。
科学者、政治家とも関心は高い。
科学者側は07年、25人の枠に100人が志願、
議員側のアンケートでは回答者の3割が「やってみたい」と答えた。

科学者が国会を訪ねる5日間の研修後、
議員が科学者の大学や研究機関を訪ねるという仕組みで、
相手の生活をかいま見、理解を深めることが目的。

◇議員のイメージ変わる

生物学者のジョナサン・ブラントさん(エクセター大学、38)は、
鳥類の繁殖行動を進化と栄養学の視点から研究。
組んだ相手は、コーンワル地方選出の国会議員、
ジュリア・ゴールドワージーさん(29)。
野党の自由民主党で、人口減少に悩む同地方の振興に取り組んでいる。

国会での研修。
ブラントさんは科学技術政策の立案過程に関するセミナーに参加、
議員に密着する「シャドーイング」を経験
党の打ち合わせ、委員会、首相へのクエスチョンタイムなど
分刻みの予定に加えて、地元や秘書からひっきりなしに連絡が入る。
食事の時間も惜しんで、迷路のような国会内を小走りで移動する
ゴールドワージー議員を、ブラントさんが追いかける。

「僕たちも忙しいが、議員も忙しいですね」とブラントさん。
国会に対するイメージも変わった。
今回の研修で、議員同士が議論を重ね、合意点を探っている様子を
間近に見ることができた。
「これからは地球温暖化のように、政治家と科学者が連携して取り組む
問題が増える。政策立案の仕組みを知っていることはとても重要」

◇科学の手続き体験

ゴールドワージー議員がブラントさんの研究室を訪れた。
研究室では、議員に研究内容を説明、大学の裏手にある森へも案内。
鳥を観察するため、巣箱とエサ場の管理が不可欠。
こうした地道な作業が研究を支えていることも説明。

学長を交えてのティータイムでは、学長がキャンパス拡充の計画を説明。
「当初の資金計画がそのまま実現するかどうか不安」との学長に、
議員は「コーンワル地方の全党派議員の会合で問題提起します」と約束。

大学の発展は、地域経済の活性化ともかかわる。
議員は、「科学がどういう手続きを踏むのか体験でき、有益だった。
議員として協力できることも分かった。
私たちのペアだけで終わらせず、他の議員にも広げたい」。

この取り組みは、欧州議会にも広がっている。
王立協会会長のマーティン・リーズ博士は、
「科学者は、研究の外の世界から自分を閉ざしがち。
参加者の中から、政治家との連携や社会への働きかけに
積極的な次の世代の科学者が育つだろう」。
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◇日本も取り組みを

昨年のノーベル平和賞は、地球温暖化への取り組みを呼びかけた
政治家のアル・ゴア前米副大統領と、温暖化問題に取り組む
科学者組織「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)が共同受賞。
科学と政治の連携が重要視される時代に。

政策研究大学院大学の角南篤准教授(科学技術政策)は、
「日本では、経済・科学技術イノベーション戦略から環境、薬害問題まで、
科学者の専門知識が政治に生かされているとは言えない。
結果として、行政への信頼が問われている。
英国の取り組みは、政治と科学をつなげる一歩として機能している。
日本でもこうした取り組みを検討してはどうか」。

http://mainichi.jp/select/science/news/20080316ddm016040129000c.html

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