2008年7月20日日曜日

当世留学生事情(15)伊藤嘉明さんに聞く…優秀な研究者 呼び水に

(読売 7月5日)

シンガポールに移った元京都大教授は日本をどう見るか?

「ここでは、いい研究さえしてくれればいいと言ってくれ、
研究費も潤沢。研究に集中できる」。
シンガポール国立大医学部腫瘍学研究所長で、
シンガポール分子細胞生物学研究所教授を兼ねる伊藤嘉明さん(69)。

京大時代に、白血病や胃がんの発症に関する遺伝子を発見、
定年退官で研究が止まるのを嫌って、シンガポールに移った。
助手や大学院生ら9人を引き連れての移籍で、
研究室丸ごとの人材流出と騒がれた。
あれから6年。
国家目標に「バイオ立国」を掲げたシンガポールの研究所群
「バイオポリス」の一角で研究を続ける。

「黙っていたら、海外からは人材は来ない。
この国は、一流の人材の集め方が徹底している」。
潤沢な研究費を約束し、2年契約や、1年のうち3か月だけ同国に滞在
といった条件で教授を招くことも多い。
研究者の妻ごとリクルートする例も。
がん抑制遺伝子の発見で知られるデビッド・レーン氏(英)ら、
ノーベル賞級の教授を次々に招いた。
一流の研究者を慕って、優秀な学生も海外から集まってきている。

「短期でも、まず来てもらうことが重要。
その教授のつながりで、後任に良い教授が来る、
付随して若い研究者も来るという良い循環が生まれている」

日本でも、動きはある。
世界最高水準の自然科学系研究・教育機関を目指し、
政府が構想を進める沖縄科学技術大学院大学
世界一流の主任研究者を50人以上そろえる計画を持つ。
シンガポールのバイオ立国構想を指揮したノーベル生理学・医学賞受賞者、
シドニー・ブレンナー氏を準備組織「沖縄科学技術研究基盤整備機構」の
理事長に招いた。

しかし、検討が始まった2002年当初に予定していた06年開学が
延び延びになっている。
「ブレンナーはワンマンかもしれないが、実績がある。
日本の官僚は、彼の流儀についていけていないのでは」

シンガポールでは、学生の招請にも積極的。
同国の科学技術研究庁長官を務めたフィリップ・ヨー氏が、
今でも各国を回り学生勧誘に努める。
「米ハーバード大だって、学生勧誘のために旧ソ連諸国に行っている。
今はそういう時代だ」

人材流出にも警鐘を鳴らす。
研究がこれからという時期に定年になった自身の経験から、
「画一的な定年制は無意味。
日本は、教授に事務が集まりすぎて、研究する時間が限られる」。

「日本のあの研究所、研究室で勉強したいという研究者は世界に多いが、
非常に閉鎖的で、国際的に過小評価されていてもったいない」。
子供の教育、住宅事情、英語講座の増加など
受け入れ環境の整備も必要。

「日本人は均質だけに、質の違う人が入れば、刺激されてより発展する。
一流の人材のリクルートと環境整備を並行して進めていかなければ、
日本はじり貧だ」。
英米での留学経験も踏まえた最後のひと言に重みがあった。

◆いとう・よしあき
東北大助手、京大ウイルス研究所教授、同所長などを経て、
2002年から現職。医学博士。69歳。

http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20080705-OYT8T00243.htm

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