2008年7月26日土曜日

理科再興(7)実験工夫、物理を体感

(読売 7月16日)

物理の世界を、実験で面白く伝える教員がいる。
「ピーッ」、「パン」、「チーン」――。
千葉県柏市立手賀中学校で、1年の理科の授業は、
松丸敏和教諭(53)が笛やトライアングルを鳴らして始まった。

授業のテーマは、「音の正体はなんだろう」。
「振動?」という生徒の答えに、
「きょうは、それを実験をして確かめたいと思います」。

両手で持ったペットボトルの口に、ストローで横から息を吹いて音を出し、
ボトルの振動を手で体験する。
発泡スチロールの粒を乗せたビニールに音叉をつけ、
振動がビニールに伝わって粒がはねることを確かめる。
ワイングラスの水に、音叉を入れ、水の表面が細かく波打つ様子に驚く。
紙コップ、磁石、ラジオも登場し、授業中に音の振動を体感した実験は
9種類に上った。
音叉以外は、生活でなじみの深いものばかり。
生徒は、「小学校よりも楽しい。テストでクラスの理科の平均点は79点」。

東京の国立科学博物館に5年間務めた松丸教諭は、
博物館で市民向けに演じた科学実験をアレンジし、理科の授業で実践。
「『音は振動』と机の上で教わるのと、体感するのでは理解が違う。
実験で興味を引きつけてから、計算などの基礎学習や、
科学の用語などを身につけるように工夫」

学校を離れて、物理を体感させる工夫もある。
岩手大教育学部の八木一正教授(58)は、盛岡市の遊園地
「岩山パークランド」で毎夏、体験学習会を開く。
「遊園地は、巨大な科学実験室」がキャッチフレーズ。
今年は来月8日の予定。

小学3年以上の約200~300人の子供が参加。
学習テキストには、遊具ごとに速さや周期などを調べる
実験課題や考察が記されている。

ジェットコースターに乗った時に体が感じる力の大きさを、
ペットボトルで作った加重力の測定器を使って測ったり、
三角比を利用して観覧車の高さを測ったり。
子供たちは遊具で遊びながら、テキストの空欄の数字や言葉を埋める。
「家族と遊びながら勉強もできる。子供たちの目の輝きが違う」

振り子、円運動など、さまざまな力学の要素が登場する遊園地は、
欧米では高校生の物理学習にも使われ、
遊園地の物理学を研究する学会まである。
都内で長く高校教員を務め、物理嫌いが多い高校生に、
物理を楽しく伝える方法を考えてきた八木さんは、海外の取り組みも研究、
2001年、岩手大に移ったのを契機に、遊園地学習会を始めた。

「高校でも、実験授業が楽しくなった生徒は、自発的に勉強するようになる。
物理の面白さは、できれば10歳までに体験してほしい。
遊園地学習会も、盛岡から未来のノーベル賞学者を出す、という意気込み

「子供たちを物理嫌いにさせたくない」。
その思いの強さが、教員の情熱を支える原動力になっている。

◆実験・観察授業の環境

日本理科教育振興協会が2004年に実施した調査では、
公立小中学校2461校のうち、小学校の77%、中学校の88%が、
顕微鏡など理科設備品が十分でない。
必要なのに老朽化して使用に堪えない設備品があるという回答も、
小91%、中95%。
実験の定期的な研修をする学校は、小4%、中10%。

http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20080716-OYT8T00201.htm

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