2008年3月4日火曜日

インクジェットプリンター技術による人工骨のカスタムメイド造形を実用化

(nature Asia-Pacific)

東京大学大学院工学系研究科バイオエンジニアリング専攻 鄭雄一教授

骨折や事故で骨を損傷したとき、骨腫瘍の治療で骨を切除したとき、
先天的な骨形成不全や口蓋裂など、骨の欠損部分に骨移植が行われる。
骨移植に使う骨には、自分の骨の一部を削って使う自家骨、
亡くなった人の骨を使う他家骨、人工骨があり、
いずれも外科医が欠損部の形に合わせて手で削って成形するのが一般的。

東京大学の鄭雄一教授は、東大病院ティッシュ・エンジニアリング部、
東大農学部、理化学研究所、医療機器開発型ベンチャー、材料メーカー、
造形ソフトのメーカー等とコンソーシアムを組み、
代表的な人工骨材料であるリン酸三カルシウムを使い、
インクジェットプリンターを用いて、患者の骨の欠損部にぴったりと合う
カスタムメイド人工骨の成形技術を開発。

これは、インクジェット方式の三次元積層造形法で、
①X線CT(X線コンピューター断層撮影)で、患者の骨の欠損部を撮影
②画像を三次元CAD(computer aided design)に取り込み、
スライスデータに変換
③貯蔵槽・造形槽にリン酸三カルシウムの微粒子を入れ、インクヘッドに
硬化液を入れた三次元インクジェットプリンターにスライスデータを入力
④貯蔵槽からローラーで造形槽に薄く引いたリン酸三カルシウム微粒子の層に、
インクヘッドノズルから硬化液を吹き付けて、リン酸三カルシウムを
再結晶化させることを繰り返し、人工骨を成形。
自由な形状の、数cmから数十cmの厚みの人工骨が数時間でできあがる。

人工骨は、形状が患部に極めて良く一致するので、
切削等による調整やワイヤー等による骨の固定も不要で、
手術時間が短縮できるというメリット。
ある程度の強度があって焼結の必要がなく、吸収置換性に優れている。
自分の骨とスムーズに置き換わるように、
細胞や血管の侵入を促すための孔隙を設計できる。

06~07年に行った10例の臨床研究では、患者は順調に回復し、
重篤な副作用は見られなかったため、
11施設で70名の患者に対し、近々治験を開始する予定。
ヨーロッパとカナダでも、臨床応用を開始する計画。

「顔面を中心とした非荷重部位での利用に注力し、
将来的には手足や体幹などの荷重部位への使用を検討したい。
高機能化するため、望みの位置に血管誘導因子や骨再生誘導因子などを
プリントして、自分の骨との置換性を高める方法も研究中」。

リン酸三カルシウムを、微小テトラポッド型に加工した材料も開発。
幅1mm弱のテトラポッドは、集積時に骨細胞や血管の侵入にぴったりの
100~300μmのすき間ができ、骨再生が速く進む。
シリンジに充填して注入でき、歯槽骨の再生などに使えそう。
「焼結する温度や表面処理の方法が決まり、
2009年に日本とヨーロッパで治験を始めたい」(鄭教授)。

形とサイズが一定であり、将来的に表面に薬剤を搭載させることで、
DDS(drug delivery system)の材料となる可能性も。

骨移植のうち、人工骨が占める割合は、
日本約30%、ヨーロッパ約15~20%、アメリカ約10%。
人工骨の形状、強度、生体適合性、吸収置換性、操作性がよくなれば、
汚染や遺体取引の問題が残る他家骨、
自分の体を傷つける自家骨移植からの移行が大きく進む。

バイオマテリアルは、材料の生体適合性や強度の研究が進んでいるが、
「患者に合う形、最も効果が高まる形に成形する技術も応用には欠かせない。
3次元造形技術は、バイオマテリアルの今後の展開の重要な鍵に」。

糖類を手術後の癒着防止に使うプロジェクトも、
東大病院産婦人科、東大農学部、医療機器開発型ベンチャー、
材料メーカー、製薬メーカー等との共同研究で進行。
手術で傷ついた部分をカバーする多糖類のゲルバリアーと、
手術中の露出による乾燥や酸化を防ぐ二糖類の分子バリアーを
組合せて使うもので、産婦人科領域での臨床研究を始める計画。

バイオマテリアルの材料や造形、使用法の開発は、
医療の進展に欠かせない。
鄭教授らの治験や臨床研究の今後に注目。

http://www.natureasia.com/japan/tokushu/detail.php?id=82

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