2008年3月8日土曜日

たんぱく質「ペリオスチン」:研究最前線 心筋を修復し、がん増殖を抑制?

(毎日 3月2日)

日本人研究者が発見し、骨の再生に関係すると考えられてきた
たんぱく質「ペリオスチン」。
急性心筋梗塞後の心筋の修復に重要な役割を果たしている。
がんの増殖抑制にもかかわっているとみられ、注目。

ペリオスチンは99年、東京工業大の工藤明教授(細胞生物学)が発見。
重力や荷重による刺激を受けると、骨を再生する仕組みで、
重要な役割を果たすと考えられているたんぱく質。

工藤教授らのチームは、ヒトのペリオスチン抗体を作成。
東京大医学部病理学教室と共同でヒトの病理組織を網羅的に調べ、
ヒトやマウスの心筋梗塞を起こした組織にも
ペリオスチンが作られていることを見つけた。

国内の急性心筋梗塞発症数は年間約15万人、
約3割が死亡していると推定。
心筋梗塞を起こした組織が、どのように修復されるかはなぞ。

研究チームは、ペリオスチンが体内で作られないように
遺伝子操作したマウスで、冠動脈を結び人工的に心筋梗塞を起こさせた。
その結果、心破裂を起こして91匹中62匹(約68%)が死んだ。
普通のマウスで死んだのは、80匹中25匹(約31%)、30ポイント以上の差。
梗塞を起こした部位を詳細に調べたところ、
ペリオスチン欠如マウスは心筋細胞修復に重要なコラーゲンを作る
線維芽細胞の数が少ない。
ペリオスチンを作る遺伝子を欠如マウスに入れると、
心破裂率が普通のマウスとほぼ同じ割合にまで低下。

「急性心筋梗塞後の心筋修復のメカニズムを知ることで、
新しい治療法の開発につながる可能性がある」。

ペリオスチンをめぐる研究は、米国を中心に競争が激しい。
心筋細胞は、線維芽細胞が分化してできるが、
心臓の再生医療の第一人者、米ハーバード大ボストン小児病院の
マーク・キーティング教授のチームは、ラットの心筋細胞に
ペリオスチンをふりかけ、心筋細胞が増えることを確認、
「ネイチャー・メディシン」に掲載。

米シンシナティ大小児病院のジェフェリー・モルケンティン教授らも、
ペリオスチン欠如マウスで心破裂が起きやすくなることを発見。
「サーキュレーション・リサーチ」が成果を掲載。
ペリオスチンと心臓には深い関係がある。

ペリオスチンは、がんの増殖抑制にも関与。
工藤教授のチームが、ペリオスチン欠如マウスにがん細胞を移植、
普通のマウスと比べ、がん細胞が大量に増殖。
ペリオスチンがあると、がんが正常細胞を圧迫する時の刺激で、
線維芽細胞が被膜を作るため、がんの成長を抑制。

ペリオスチンは、筋肉に加わる物理的な力に応じて生じるたんぱく質。
歯と骨の間にある歯根膜などで多く発現。
工藤教授らは、ペリオスチン欠如マウスを詳細に観察。
マウスの切歯は、短くなると再生して元の長さまで伸びるが、
ペリオスチン欠如によって歯根膜がうまく形成できず、切歯が再生できない。

骨の再生メカニズムとの関係は、人間の長期宇宙滞在の可能性や
寝たきり状態の改善などから注目。
慶応大の須田年生教授(幹細胞生物学)は、
「重力など機械的な刺激が少ないと、人間は骨量が減り、骨が細い。
ペリオスチンは、骨の再生に関係している可能性が大きく、
ペリオスチン研究による骨の再生メカニズムの解明が、
こうした課題の克服に役立つと考えられる」。

http://mainichi.jp/select/science/archive/news/2008/03/02/20080302ddm016040088000c.html

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