2008年3月5日水曜日

バイオテクノロジーの特異性

(サイエンスポータル 2008年3月3日)

井村裕夫氏(科学技術振興機構 研究開発戦略センター)の
インタビュー記事「急を要する臨床研究開発体制の改革」を読んで、
薬の開発が恐ろしく手間も金もかかることにあらためて驚く人は多い。

中村桂子・JT生命誌研究館館長の書評もまた衝撃的。
「サイエンス・ビジネスの挑戦-バイオ産業の失敗の本質を検証する」
(ゲイリー・p・ピサノ著、日経BP社)。
著者はハーバード・ビジネススクール教授。

「バイオテクノロジーというサイエンスのビジネスは、
利益を上げられず、新薬開発を通じた科学への貢献という意味でも
際だった生産性を示していない」。

「アメリカでのバイオテクノロジー上場企業の売上高は、90年頃から上昇、
350億ドルになっているが、利益が見られるのは3社のみ、
全体としては利益ゼロ、マイナスの会社も少なくない。
長期間利益を上げない産業は他に例がない」。

なぜ、製薬研究開発が簡単に利益に結びつかないのか?
「一つは、深刻な不確実性がありリスクが著しく高いこと、
もう一つは、プロセスが『すりあわせ(インテグラル)型』である」
の2つの特異性による。
それぞれ部品を独立して設計しても困らない普通の工業製品と異なり、
「医薬品が入り込む人体は、部品間の相互依存性が高く、
全体としてのすりあわせが不可欠」という大きな違い。

では、バイオテクノロジーの産業化に効果的な戦略はないのか。
ピサノ教授は、「基礎科学への投資」、
「寡占にせず多くの人に研究させ、横断的研究を助成」
「トランスレーショナル・リサーチの必要」。

中村氏は、ピサノ教授の提言を「気が抜けるほど真っ当な提案」と評し、
日本の現状に懸念を表している。
「米国でさえこれだとすると、戦略も分析もなしに集中と選択とイノベーションを
謳っていてどうなるのだろうと心配に」

http://scienceportal.jp/news/review/0803/0803031.html

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