2008年4月4日金曜日

机上の空論、メタボ健診 新年度開始、自治体から疑問百出

(毎日新聞社 2008年3月26日)

メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)の患者を減らすことで、
医療費削減を目指す特定健診・保健指導(メタボ健診)。
新年度からのスタートを前に、全国806市区を対象に実施した調査には
「机上の空論」などと厳しい声が多数寄せられた。
現場の担当者の声から問題点を探った。

メタボ健診は、「腹部に内臓脂肪がたまったメタボリックシンドロームの人は、
脳卒中や心筋梗塞などの心血管疾患を起こしやすい」学説に基づき計画。
メタボを防ぐことで生活習慣病の患者を減らし、医療費の削減を目指す。

対象者は、妊婦などを除く40-74歳の医療保険加入者全員。
医療保険の保険者に実施が義務付け。
組合健康保険など被用者保険は職場などで、
国民健康保険は地元の医療機関などで実施。
被用者保険の扶養家族(専業主婦など)は、健保組合が委託した
医療機関などで受ける場合が多い。

腹囲やBMIが基準以上で、血糖値、血圧、血中脂質の数値も
基準を超えた人は、保健師や管理栄養士らの指導(保健指導)のもと、
食事や運動など生活習慣の改善に取り組まなければならない。

◇目標達成遠い、財政悪化拍車


自治体のメタボ健診は、従来の住民健診を衣替え。
住民健診との最大の違いは、保険者へのペナルティーがあること。
市町村の場合、12年度までに
▽健診実施率65%
▽指導対象者に対する保健指導実施率45%
▽メタボ該当者・予備群の減少率10%
を達成できないと、後期高齢者医療制度への財政負担が最大10%加算。

東京都内のある市の試算では、最大2億円のペナルティーがあり得る。
大都市ならさらに大きくなる。
同市は、「国民健康保険は高齢者や低所得者が多く、
一般会計からの繰り入れや基金取り崩しで収支を保っている。
ペナルティーは財政の不安定要因」。

健診実施率や指導実施率の目標達成も容易ではない。
05年度の住民健診受診率は全国平均43・8%で、65%には程遠い。
市町村国保の過半数は赤字で、ペナルティーによって保険料値上げが
必要になる自治体が出る恐れ。
目標を達成できないと、住民が連帯責任を負わされる。

住民の健康への悪影響を懸念する声も。
兵庫県内の市は、「ペナルティーで財政が悪化すればサービスも低下し、
改善率などもさらに悪くなる。成績の悪い地域こそ支援してほしい」。

財源の問題も。
国と都道府県が費用の3分の1ずつを負担するが、補助単価は全国一律。
健診や指導の実施機関が多く人口も集積する大都市に比べ、
地方はコスト高が予想。
秋田県内の市の見通しでは、国の補助が実際の費用の8分の1程度。
担当者は、「地方では健診などの各実施場所ごとに集まる人数が少なく、
コストが高くなる。国はかかった実額の3分の1を負担してほしい」。

◇見落とし発生、総合対策が先

メタボ健診は、内臓脂肪型肥満が原因の生活習慣病を主なターゲット。
腹囲や体格指数(BMI)が基準値未満だと、血糖や血圧などに異常があっても、
食事や生活習慣の改善を指導する保健指導の対象にすらならず、
健診の質を疑問視する声も。

福岡県内のある市の試算では、保健指導の対象者は
同市の国保加入者のわずか3%。
血糖などに異常があっても、腹囲は基準以下という人も多い。
同市は、「メタボだけに焦点を当てては、国が掲げる
『生活習慣病有病者・予備群の25%削減』は達成できない」。

がん検診と住民健診を同時に実施してきた自治体にとっては、
がん検診の受診率低下も懸念。
従来は、両健診とも市町村が全住民を対象に実施。
しかし、市町村のメタボ健診は原則として国保加入者だけが対象、
国保加入者以外はがん検診を別に受ける必要。
山形県内の市は、「住民健診受診者にがん検診も受けるよう呼びかけ、
やっと受診率が伸びてきたのに……。
がん検診受診者が減れば、がんによる医療費増につながりかねない」。

メタボ基準には、腹囲の数値の妥当性などを巡って異論がある。
基準策定に加わった日本内科学会が、
「今後、新たな疫学研究や臨床研究を踏まえて科学的検討を行う」
との見解を発表。

健康には、労働環境など社会的な要因が深く関係。
京都府内の市担当者は、「体にいい生活をと思っても、
収入を得るためにできないこと、収入が少ないためにできないこともある。
就労環境の改善や喫煙対策など、国を挙げて取り組むべき課題を抜きに、
ペナルティー付きの制度を導入するのは矛盾を感じる」。

◇準備遅れ、人も不足

「介護保険制度は、何回も改正が繰り返された。
特定健診でも同じことになるのではないか」。
厚生労働省の情報提供の遅れによる準備不足を不安視する声。

厚労省健康局が具体的な健診や指導の内容を盛り込んだ
「標準的な健診・保健指導プログラム(確定版)」を公表したのは、
開始が1年後に迫った昨年4月。
法的側面から解説する厚労省保険局の「手引」が出されたのは7月。
年明け以降も、通知が五月雨式に出され、細かな変更も続く。
京都府内の市は、「確定版で準備を進めていたら、
手引などで違うことが書かれていて困った」。

公務員の増員が困難な中、保健指導を担う職員の不足も深刻。
京都府の別の市の担当課は、「国が目標に掲げる『保健指導実施率45%』を
実現しようにも、今の職員数では不可能」。

http://www.m3.com/news/news.jsp?sourceType=GENERAL&categoryId=&articleId=69841

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