2008年7月19日土曜日

HDLコレステロールが低いと記憶力の低下につながる

(Medscape 7月2日)

中年期で、高比重リポ蛋白コレステロール(HDL-C)の濃度が低いと
記憶力の低下および高齢時の認知症につながることが報告。
Dr Archana Singh-Manoux(フランス国立保健医学研究所[INSERM])ら
が行ったこの研究は、
『Arteriosclerosis, Thrombosis and Vascular Biology』に掲載。

Singh-Manoux博士らは、認知症が脂質レベルを変化させ、認知症の患者の
総コレステロールや低比重リポ蛋白コレステロール(LDL-C)が低くなるという
エビデンスがいくつかあり、高齢者において脂質が認知力に及ぼす影響を
調べて得られる結果は誤っている可能性が高い。

中年期の脂質レベルとその後の認知症との間には確かな関係があるが、
重要な脂質のレベルについては正確には分かっておらず、
LDL-C、総コレステロールが高いことが関係しているとする研究もあれば、
HDL-Cレベルが低いことが関係しているとする研究もある。

HDL-Cは、シナプスの成熟とシナプス可塑性の維持に不可欠、
アミロイド形成に影響を及ぼし、アルツハイマー病患者の脳に見られる
蛋白質プラークの主要成分
HDL-Cが低いと、海馬体積が小さい。

今回の研究は、「ホワイトホールII試験」の被験者3,673例を対象に
脂質と短期言語記憶との関係を調べた。
「ホワイトホールII試験」は、英国ロンドンの国家公務員10,000例以上を
対象にした長期健康調査。
被験者の総コレステロール、HDL-C、トリグリセリドを測定し、
2回にわたって短期記憶の検査を行った。

1回目は1995~1997年まで、平均年齢55歳。
2回目は2002~2004年まで、平均年齢61歳。
記憶力の評価は、1または2音節からなる単語20語を約2秒間隔で読ませた。
被験者に、2分間で思い出せるだけの単語を書かせた。
思い出せる単語数が4語以下の場合を記憶障害。

分析は、教育歴、職業上の地位、冠動脈疾患、脳卒中、高血圧、
薬物の使用の有無、糖尿病、喫煙、アルコール消費量で調整。

HDL-Cレベルが低い者(<> 60 mg/dL)に比べ、
2回の評価時のいずれでも記憶障害になっている傾向が大きい。
連関性は、アルツハイマー病の強いリスク因子である
アポリポ蛋白Eε4(アポE4)遺伝子の有無からは独立。

HDL-Cレベルの低い者と高い者とを比較した記憶障害のオッズ比(OR)
平均年齢55歳:1.27 (0.91 - 1.77)、61歳:1.53 (1.04 - 2.25)

2回の記憶力測定の時の脂質レベルを分析すると、
HDL-Cレベルの変化のみが記憶力低下に関連。
HDL-Cレベルが低い者は、高い者に比べて、
記憶力低下(思い出せる単語数が2語以上減少)のリスクが大きい(OR:1.61)。

脂質と記憶力低下との関係に有意な男女差はない、
総コレステロールとトリグリセリドは記憶力低下との間に関係がない、
HDL-Cを上げ、LDL-Cを下げるためのスタチン類使用と記憶力低下とは関連しない。

Singh-Manoux博士は、
「HDL-Cが低いことは、後期中年期での記憶力低下のリスク因子。
低いHDL-Cは、認知症のリスク因子でもある可能性」。

HDL-Cと認知症との正確な因果関係は不明だが、
HDL-Cがβアミロイドの形成を防止、アテローム性動脈硬化や血管損傷に作用し、
抗炎症性・抗酸化作用を介し、記憶に影響を与えることが考えられる。

「高齢者における脂質と記憶力との関係を調べた多くの研究は、
心血管疾患のリスク因子であることが証明されている総コレステロール、
LDLコレステロールに着目。
今回の知見は、注目をHDLコレステロールにまで広げる必要がある」

◆関連する解説記事

Anatol KontushとJohn Chapman(ピエール・アンド・マリーキュリー大学)は、
血漿HDL-Cが低いことと認知症との関連は報告。
高いHDL-Cは、コレステリル・エステル転移蛋白質(CETP)の活性を抑え、
長寿、認知力改善、認知症を伴わない生存につながっていること、
アルツハイマー病の患者では、HDL-Cレベルが低くなるCETP多形性が
高頻度で見られる。

血漿の脂質レベルは、認知症発現の頃に顕著に変動する場合があり、
測定の時期が決定的に重要になるため、因果関係を示せたものはなかった。
HDL-Cを、アルツハイマー病に結びつける生化学メカニズムには複雑で
多様なものが考えられるとし、
「HDL-Cのレベルを上げると、良好な記憶力が保護される」
「因果関係が解釈できない観察研究に基づいて
治療的介入を推奨する場合には、多大な警戒を残しておかなければならない。
Singh-Manouxらの研究のように、重大な限界がいくつかある場合にはなおさら」

「HDL-Cは、有望である可能性はあるが、認知症および記憶力喪失の
予防のターゲットにはまだ入れられない。
HDL-Cと脳機能との相互作用に、研究の力を集中させることが必要」

出典
1. Singh-Manoux A, Gimeno D, Kivimaki M, et al. Low HDL cholesterol is a risk factor for deficit and decline in memory in midlife. The Whitehall II study. Arterioscler Thromb Vasc Biol. DOI:10.1161/ATVBAHA.108.163998.
2. Kontush A, Chapman MJ. HDL: Close to our memories? Arterioscler Thromb Vasc Biol. Published online before print June 30, 2008.

http://www.m3.com/news/news.jsp?sourceType=SPECIALTY&categoryId=580&articleLang=ja&articleId=77005

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