2010年12月26日日曜日

男女の治療、一律にせず コレステロールを考える/下

(2010年12月17日 毎日新聞社)

佐賀県武雄市の「ニコークリニック」を受診した女性(60)は、
悪玉のLDLコレステロールが212mg/dlと高かった。
日本動脈硬化学会の診断基準では、LDLが140以上の人は
「脂質代謝異常」とされ、医療現場でもコレステロールを下げる薬が
処方される例が少なくない。

同クリニックの田中裕幸院長は、
「閉経後の女性は、一般にLDL値が上がる。
140を超えたからといって、すぐに薬を出すことはしない」。
この女性は他に異常はなく、魚をよく食べ、運動もしていたため、
特に治療はしなかった。

田中院長は、薬を処方しない理由として、
「一般的に女性はLDLが200程度まで上がっても、
心筋梗塞の発症率が増えないという臨床研究報告が多い」

同学会がまとめた、「動脈硬化性疾患予防ガイドライン」(07年)、
女性における冠動脈疾患の発生率は低く、
女性の高LDLコレステロール血症は、男性以上に他の危険因子の
存在を考慮して管理することが必要」

「他の危険因子」とは、高血圧や糖尿病、喫煙などで、
併せ持つ人ほどリスクは高まる。

田中院長は、コレステロール降下薬を処方するかを判断する際、
頸動脈の「肥厚」(IMT=内膜中膜複合体厚)を調べる。
肥厚は、超音波エコー検査で確認できる。
頸動脈は、動脈硬化を検査しやすい血管で、
体全体の状況も反映する。
厚みが大きく、血管が狭くなっていれば、動脈硬化が進行している表れ。

田中院長は今年4月までに、患者の男女114人(45~69歳)を対象、
LDLの数値と頸動脈の肥厚を調べた。
男性では、LDLが高いと肥厚も厚かったが、
女性では相関が見られなかった。
肥厚と関係していたのは、脂肪酸の一種のアラキドン酸。
「性差を考慮した治療が重要」と、田中院長。

個々の数値ではなく、LDLとHDLの比率が重要だとする見方も。
三井記念病院総合健診センター(千代田区)の山門實所長は、
内外の人間ドック健診データの分析に基づき、
「HDLに対するLDLの割合(LH比)が2・5倍以上だと、
頸動脈の肥厚が厚くなる傾向がある」

悪玉のLDLが正常値でも、善玉のHDLが極端に低ければ、
動脈硬化症のリスクが高まることになる。

「血清コレステロールの管理基準を巡って」と題された公開討論会が、
東京大で開かれた。
日本脂質栄養学会が、「コレステロールが高い方が長生きする」とする
独自のガイドラインを発表したのを受け、
NPO法人「臨床研究適正評価教育機構」が主催。

医療関係者3人が講演した後に討議、会場から意見も募ったが、
脂質栄養学会のガイドラインへの批判の声が多かった。
北野病院(大阪市)の越山裕行・糖尿病内分泌センター長は、
「コレステロールを下げることは有害、という考えは明らかに間違い」
などと語気を強めた。

同NPOの桑島巌理事長(東京都健康長寿医療センター副院長)は、
「高コレステロール血症が、動脈硬化を促す危険因子なのは
多くの疫学調査で明らかで、コレステロールの高い方が長生きと
結論づけるのは危険」としながら、
脂質代謝異常の基準を、男女一律にLDL140以上とすると、
不要な治療を促す要因になりかねない。
女性の更年期以前と以降の基準値も示す必要」

日本脂質栄養学会は近く、反論の声明を出した日本動脈硬化学会に、
質問書を出す予定。
批判が多い今回のガイドラインだが、コレステロール論議に
一石を投じたのも事実。
生活習慣病の治療・予防にかかわり、多くの人が関心を寄せる
コレステロールだけに、今後も徹底した前向きな論議が期待。

http://www.m3.com/news/GENERAL/2010/12/17/129956/?portalId=mailmag&mm=MD101217_XXX

0 件のコメント: