2011年7月13日水曜日

環境・健康が勝負どころ 製造業にサービス価値を 小林喜光・三菱ケミカルホールディングス社長

(2011年6月29日 共同通信社)

日本経済を支える柱である製造業の将来が、危ぶまれている。
円高、高い法人税率...といった逆風に、電力不足が加わり、
生産拠点の海外移転、いわゆる「空洞化」の加速が懸念。

日本では、数少ない理学博士号を持つ経営トップとして、
国内最大の総合化学会社の最前線から「モノづくり」の再生策を説く。

「日本が今後、何をもって生きていくのか、何で食っていくのかという問題は、
バーチャル(仮想的)な危機としては意識されていたが、
東日本大震災と福島第1原発事故によって、リアル(現実的)な危機となった。

将来にわたって、原発をエネルギー源として頼ることができず、
代替するグリーンエネルギーを早く開発しなければならないという問題。
製造業は、三重四重のハンディを抱え、一部は空洞化せざるを得なくなる」

空洞化が、そのまま製造業の衰退につながらないのか心配。

「石油化学は、資源のない日本ではタンカーで高い原油を運んでくる。
競争相手の中東では、極めて安い天然ガスで、ポリエチレンをつくっている。
明らかに競争にならないから、日本の化学会社は、
海外に出て行かざるを得ない。
三十数億人のアジアの人々の洋服や自動車に、われわれが培った
石油化学の技術が有効に使われるはず。

ただ、それだけではない。
二面作戦のもう一方として、世界シェアが一番とか、
非常に特異な技術を持っている分野、環境・健康という方向性を
明確にすれば、21世紀的な商品体系をつくることができる

日本の製造業が、勝負していける「強み」は、どこにあるのだろうか?

「技術力だと思う。
ノーベル賞をもらうような科学というより、テクノロジーのレベルが強い。
改良とか、小さいモノをものすごく器用につくるとか。
日本人には、まだまだその力がある。
大事なことは、その技術が目指す目標を、健康や環境といった
方向に変えていくことだ。
原発に頼れない時代になると、植物由来の材料や、太陽光などの利用に
つなげていけるかが、勝負どころになってくる」

製造業が生き残っていくには「モノづくり」に、
サービスという付加価値を付けることも重要というのが持論。

「自動車会社だと、自動車をつくるだけではなく、ロボットを含めて
モノを動かす総合的なサービスを事業化する。
ビール会社も、ビールだけじゃなく、人間が心地よいと思う食品文化をつくる。
化粧品会社だって、モノに付随したサービス業。
三菱ケミカルが手掛けている医療品も、薬だけつくっていればいいという
時代は終わった。
一人一人の患者さんの診断を受け、予防医学でなるべく
病気にしないようにしたい」

産業の柱を、製造業から思い切ってサービス産業に
転換してしまった方がいいという主張も。

「サービス業だけだと、ちょっときつい。
海外に打って出る、強さを持った産業がないと駄目。
介護とか医療産業は、あくまで内向き。
国内だけで金のやりとりをして、最後に気付いたら
何もなくなっちゃったという、『花見酒経済』に陥ってしまうだろう」

「じっくりと技術を育て、仕掛けをつくって磨いていくことに優れている
日本人の特徴は、製造業に向いていることも忘れてはならない」

21世紀は、化学の時代だ。
化学が日本産業をどう変えていくのか?

「ノーベル化学賞をとれるような日本人が、あと何人もいる。
日本人は、ナノテクノロジーなどでは、アジアの中では非常に優れている。
悩ましいのは、若者が理科系に行きたがらないこと。
鉄や化学は、CO2ばかり出しているという誤ったイメージがある。
出来上がったモノを享受する産業にだけ集まってしまうのは、どこか違う。
人間は物を食べ、排せつし、飛行機や自動車に乗っている。
そういう全体系をしっかり可視化して、教育しなくてはいけない。
製造業はどうあるべきかを、国民全体がもっと共有していかないと」

「新炭素社会」との言葉をつくり、炭素技術の将来性を熱っぽく語る。

「炭素の細工を、僕は『錬炭素術』と呼んでいる。
究極の錬炭素術は、植物がCO2と水と太陽光から炭化水素、
糖をつくるような光合成。
光合成のまねをするか、もっと原理的に炭素と炭素をくっつけるか、
これがあと40年か50年たったら、必ず現実になるだろう。
それは、何で実現できるかといったら化学だ。
僕が『新炭素』というのはそこにある」

※小林 喜光氏(こばやし・よしみつ)

東大理学系大学院修了後、イスラエルのヘブライ大に留学。
イタリアのピサ大留学を経て、三菱化成工業に入社。
企業統合で誕生した三菱ケミカルホールディングスで、07年に社長就任。
今年4月、経済同友会の副代表幹事を務める。山梨県出身。64歳。

http://www.m3.com/news/GENERAL/2011/6/29/138696/

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