2010年2月8日月曜日

岩崎博士に学ぶ研究者の気概

(日経 2010-01-22)

「垂直磁気記録方式」を開発した岩崎俊一・東北大学名誉教授が、
2010年の日本国際賞を受賞。

磁気記録の大容量化に道を開く同方式を、1977年に提唱、
最初の製品は05年に登場。
28年もの歳月をかけたイノベーションは、
岩崎名誉教授の気概なくして起きえなかった。

国際科学技術財団が開いた日本国際賞の受賞者発表に、
83歳の岩崎名誉教授が元気な姿を見せた。
「この上ない名誉」と表彰を喜びつつ、磁気記録が膨大な情報を
後世に伝える「IT時代のロゼッタストーンの役割を果たす」と、
自身の成果の意義を明快に解説。

磁石のN極とS極の向きの違いを、デジタル情報に置き換える
磁気記録は、ピアノ線を使う1次元記録に始まり、
磁気テープを使う2次元(水平磁気記録方式)へと発展。

今から50年前、音楽録音用のメタルテープを開発した
岩崎名誉教授は、「もっと記録密度を高くするには、
どうすればよいだろうか」を考え始めた。

たどり着いた方法が、磁石のN−S極を
3次元に並べる垂直磁気記録。

提唱から2年後の79年、コバルトとクロムの薄い蒸着膜を使って、
垂直磁気記録が可能なことを検証し、その実用化を目指して
研究開発を続けた。

途中、同方式を採用したフロッピーディスクの事業化の失敗や、
水平磁気記録方式の性能向上などがあり、
多くの研究成果が市場に出る前に迎える壁、“死の谷”に陥った。

米国では、垂直磁気記録装置の商品化を目指して
ベンチャー企業が出現、市場を開拓できなかった。
水平磁気記録方式の装置で、市場を握る大手コンピューターメーカーが、
徹底的に抵抗したとも。

それでも、岩崎名誉教授はくじけなかった。
日本国際賞の審査に当たった前田正史・東京大学教授は、
「この道一筋。執念を感じた」

77年 岩崎東北大教授が垂直磁気記録方式を提唱
80年代前半 垂直磁気記録媒体、読み取り用ヘッドの研究が盛ん
82年 米国で垂直磁気記録の商品化を目指し、
    バーティマグ社やセンストア社などが設立
89年 第1回垂直磁気記録国際会議
95年 東北大などMR(磁気抵抗)ヘッドによる
    垂直磁気記録方式を提案。
    その後GMR(巨大磁気抵抗)ヘッドに引き継がれる。
00年 東北大と日立製作所が実用的な垂直磁気記録システムを発表
05年 東芝が世界初の垂直磁気記録方式の装置を商品化
10年 新たに発売される磁気記録装置の方式がすべて垂直磁気記録に

研究開発を継続し、実用化にこぎ着けた原動力は何か?
岩崎名誉教授は、2つの要因をあげた。
1つは、「発明者としての責任」、
もう1つは、「私の執念を引き継いだ弟子たちのがんばり」

垂直磁気記録方式を提唱した当時、岩崎名誉教授は、
現在のような情報社会の到来は予測できなかった。
大容量の磁気記録が必要になる、との確信は揺らがなかった。

メタルテープの開発、垂直磁気記録方式の提唱と続け、
実用化を途中で投げ出すことは信念に反し、できなかった。

そんな思いを直接学んだ卒業生が、日立製作所や東芝、
富士通などに入社、商品化に向けて奮闘した。
岩崎名誉教授は、最初の基本原理の成果だけを特許出願し、
その後の開発成果は、企業が特許を取得できるように
権利化を主張しなかった。
今でいう「オープンイノベーション」を先駆けた。
「教育者としても実績を残せたと思う」と岩崎名誉教授。

海軍兵学校を経て、東北大に進んだ岩崎名誉教授は、
「古い人間ですから」と断りながら、研究史を振り返った。
世界の経済社会の進展や、技術の高度化・専門化など、
当時と現在を単純に比較できない。

技術開発という人間活動を支える気概は、
大いに学ぶべきところがある。

http://netplus.nikkei.co.jp/ssbiz/techno/tec100120.html

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