(日経 2010-01-29)
遠い昔から、川の流れが人の生活を大きく変えてきたように、
電子の流れが生物の働きを変えることが、
農学系の研究者らによって明らか。
生物体内の「電子回路」を人工的に変えると、
それまで以上のパワーを発揮したり、見たこともない反応を
起こして、化学物質を合成できたりする。
化石燃料に頼らない、自然と共生するものづくりが実現。
新たな産業を生み出す可能性も高い。
2009年10月、「e—バイオの幕開け」と題する公開セミナー。
主催は、農学系研究者中心で旗揚げしたばかりの
「e—バイオ研究会」。
「e」は、電子の略号。
メンバーはたった5人、農学に電子工学の視点を盛り込む
新しい試みに期待し、セミナーには農学と近い食品関連だけでなく、
旭硝子や昭和電工、大手ゼネコンの鹿島や大成建設など
企業を中心に100人近くが集まった。
e—バイオ研究会の発足メンバー
東京大学・石井正治准教授 「有機化合物や薬剤の生産」
京都大学・加納健司教授 「化学エネルギーの電気エネルギーへの変換」
京都大学・小川順教授 「微生物複合酵素系を活用するものづくり」
宮崎大学・林雅弘准教授 「光と微細藻類を使うものづくり」
電力中央研究所・松本伯夫主任研究員
「電気エネルギーの生命エネルギーへの変換」
研究会の中心人物は、京都大学の加納健司教授。
全国の農学系の中でも、数少ない電気化学の研究室を受け持ち、
電子工学に最も距離が近い。
生物の電子機能を使う研究に、長年取り組んできた。
2001年、ソニーと共同で酵素を使ってブドウ糖などを分解して
発電するバイオ電池の開発を続けている。
「これまでは、酵素の働きをそのまま使っていた。
今後は、酵素にもっと働いてもらう」
細胞膜を構成するリン脂質で作るカプセル状の
微粒子(リポソーム)に、酵素をとじ込めて並べる研究を計画。
電池反応は、いくつもの化学反応が連鎖して起こる。
それぞれの反応を媒介する触媒は違い、バラバラの場所に。
これらをリポソーム内に詰め込んで、リポソームを並べれば、
電池反応の効率が格段に向上。
「電子回路で言えば、集積化だ」と加納教授。
他には、細胞表面を覆う天然のコンデンサー、細胞膜に注目。
神経も細胞の一種。
加納教授の計算では、情報を伝達する時、
厚さ約6nmの細胞膜の内外に、約120ミリボルトの電位差が生じる。
呼吸や光合成では、電位差は300ミリボルト。
一見小さい値に思えるが、厚さを2cmに拡張すれば、
100万ボルトの電位差に。
「この電位差を拝借して、何かに利用できないものかと考えている」
東京大学の石井正治准教授は、茨城大学の西原宏史准教授、
ダイセル化学工業と、細胞の中の電子回路を大改造して、
有機化合物や薬剤の生産を目指している。
西原准教授の研究室では、すでに成果が出始めている。
土壌中に生息する水素細菌に、本来持たない酵素を導入、
新しい電子の流れを生み出し、高純度のアルコールを作る
実験に成功。
東大の石井准教授は、大腸菌を使った同様の研究を開始。
生物の体を電子の流れで改造する研究は、
まだ農学研究者によって始まったばかり。
ここに優れた電子回路や機器を開発してきた
電子のプロが加われば、e—バイオは大きな利益をもたらす
新しいe—ビジネスに発展するかもしれない。
http://netplus.nikkei.co.jp/ssbiz/techno/tec100128.html
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