2010年2月7日日曜日

イタリア、知られざる西欧の“中国”

(日経 2010-01-28)

米グーグルが、中国サイトの検索サービスにかけていた
自主検閲をやめると宣言、米中政府間の非難合戦に発展し、
「インターネットの自由」の問題に改めて注目。

ヒラリー・クリントン国務長官は、「ネットの自由」を世界的に
広めていくことを、米外交政策の重要課題と位置付けると宣言。
中国、北朝鮮、ベトナム、サウジアラビア、チュニジア、
ウズベキスタンなどを名指し、そこで実施されている検閲や
特定サイト・サービスの利用制限、ネット上での言論・発言を
理由にした市民の逮捕・拘束などの行為を非難。

これらは、そもそも非民主主義国家か、表向き民主主義でも
言論統制で長期政権を維持している国々で、
欧米的人権意識を浸透させるにはあまりに道のりが遠い。

もっと容易にネットの自由拡大に取り組めそうな国が、
G7(主要7カ国)の中にあることは、あまり知られていない。
芸術の国イタリアである。

同国は、2005年からテロ防止のため、公衆無線LANの
基地局運営業者とネットカフェの運営業者を免許制とし、
警察への登録を義務付ける法律を施行。

業者は、利用者個人のID情報と利用記録を保管し、
警察の求めに応じて提出を義務付け。
つまり、利用者も実質的に登録制なのだ。
法律は、09年に1度期限を迎え、同国国会は期限を更新。

匿名性の確保は、言論の自由の大事な要素の1つ。
個々人のネットの利用記録を政府が入手できる体制では、
政権に反対する勢力や人権活動家などが、
いつネット記録を政治的に悪用されるか不安。
こんな国が、G7に混ざっているとは驚き。

今、同国で議論が盛り上がっているのが、
ネット接続業者(ISP)とウェブサイトに、自社を通じて表示された
コンテンツの監視を義務付け、法的問題について責任を
負わせる規制案の是非。

規制が実施されると、著作権侵害映像などの投稿の賠償責任を
ISPと投稿サイトが負うことになり、一般利用者が自由にコンテンツを
投稿する、UGC(利用者発コンテンツ)を表示する動画投稿サイトや
ブログ、SNS(交流サイト)などの運営が難しくなる。

規制案は、国会審議が必要な法律案ではなく、
政省令案として議論、大統領の承認があれば発効する。
国会が、2月上旬までに政府に意見書を提出、
各界関係者からヒアリングを続けている。

規制の実施で最も影響を受けそうなのが、世界最大の
動画共有サイト「ユーチューブ」を傘下に持つ米グーグル。

1分で、20時間分に及ぶ動画が世界中から投稿される
ユーチューブが、すべてを事前チェックするのは不可能。
規制が実施されれば、イタリアからの撤退を余儀なくされる可能性。

イタリアは、グーグルにとって、中国以上に鬼門。
メディア王のベルルスコーニ首相が経営するメディア複合企業、
メディアセット社から著作権侵害で、5億ユーロの損害賠償を
求める訴訟を昨年末に起こされた。

同国検察は、障害を持つ子供を他の子供がいじめている光景を
映した投稿動画を表示したとして、グーグル幹部4人個人を
刑事訴追、09年2月から裁判が続いている。

苦情を受け、動画はすぐに削除したが、
そもそも表示したこと自体が違法というのが検察の主張。
企業活動が問題なのに、個人が刑事訴追されたことも、
ショックを与えた。

ウェブ上のUGCに対するウェブサイトやISPの責任は、
世界各地で微妙な問題。

編集責任をもたず、ただ投稿を表示する装置(サイトや通信網)を
運営する企業は、コンテンツには責任を負わないというのが、
国際的な判例の傾向。
イタリアでの裁判の行方次第では、国際常識が変わりかねないと、
世界のネット企業に注目。

新たな省令や刑事裁判の結果、世界的にISPやウェブサイトの
責任が拡大する方向に動けば、クリントン氏が打ち出した
ネットの自由の拡大、情報流通の自由などの政治課題の推進は
いっそう困難。

中国での人権状況の改善も、政権の外交戦略上重要だが、
「自由世界」の中の課題にも、ぜひ取り組んでもらいたい。

http://netplus.nikkei.co.jp/ssbiz/ittrend/itt100127.html

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