2011年1月9日日曜日

フロンティア:世界を変える研究者/13 東京大教授・藤田誠さん

(毎日 1月4日)

◇脱「力ずく」で分子多様に--藤田誠さん(53)

「最新の成果です」と見せてくれたのは、ボールのような分子の模型。
48個の有機分子が、24個の金属イオンで結合。
実際の大きさは、直径6~7nmで、炭素原子がボール状に結合した
新素材「フラーレン」(直径1nm)よりはるかに大きい。
巨大で複雑だが、「実験操作は簡単。材料を混ぜるだけ」とほほ笑む。

駆け出しの研究者だった90年、作るのが難しかった正方形の分子を
大量に合成できた。
予想以上の成果の理由を考えるうちに、水溶液中の金属イオンが、
有機分子の窒素原子とくっついたり離れたりを繰り返し、
「一番おさまりがよく、安定した形」に、自ら落ち着いたのだと気付いた。
「自己組織化」の概念にたどりついた瞬間だった。

自己組織化は、雪の結晶や脳の神経回路構築など、
自然界に多く見られる。
DNAの二重らせんも、高度な自己組織化の結果だ。
生物が持つこの精妙な技を使って、さまざまな分子を
人工的に作れないか。
熱や圧力をかけて、「力ずく」で組み立てる従来の手法では不可能だった、
新しいものづくりができる--。そう直感した。

材料となる有機分子の形状を工夫すれば、カゴ状、筒状、
知恵の輪状など多様な分子を作れる。
これらの可能性は無限だ。
薬を閉じこめて、患部へ直接運ぶ「ドラッグ・デリバリー」や、
内部で化学反応を起こす「ナノサイズのフラスコ」としての応用が期待。

小学生時代の宝物は、小遣いで買いためた実験器具。
姉の教科書に出てくる実験を、片っ端から試して楽しむ理科少年だった。
一方、「記憶するのは大の苦手」。
有機化学は、複雑な化学式で記述されるが、
今でも丸暗記している反応はない。
「原理・原則を理解すれば、100個くらい化学式が並んでいても、
(反応時の)電子の流れが見えてくる」

学生時代は岩登りに熱中し、大学1年の時は年間100日以上、
山に通った。
絶壁で手掛かりを失い、とっさに歯で岩にかじりついて
ピンチを脱したことも。
数々の修羅場で培った胆力が、研究でも役立っている。
「人と違ったことをするのが好き」。
学生・スタッフ約30人の研究室を率いる今も、その冒険心は衰えない。
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◇ふじた・まこと

東京都出身。千葉大大学院修士課程修了。
東京工業大で博士号(工学)取得。千葉大助教授、名古屋大教授などを
経て、02年から現職。
01年日本IBM科学賞、10年江崎玲於奈賞。専門は有機錯体化学。

http://mainichi.jp/select/science/archive/news/2011/01/04/20110104ddm016040018000c.html

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